「う、うわぁっっ!」


湖の中から現れたのは、見上げるばかりの龍だった。
まるで湖の色に染まったかのような鮮やかな青い色をしている。



「あわ、わ、わ……」

情けないことに俺はあまりの恐ろしさに腰が抜け、その上、あごまではずれそうになっていた。



「おっ?かっぱとは珍しい。」

何と、その龍は、人間の言葉を話し、しかも、鼓膜がびりびりするような大きな声で笑ったんだ。



「珍しくて悪かったな。
龍だって、最近ではとんと少なくなったって聞くぞ。」

ゆかりさんは少しもひるむことなく、龍と対等に渡り合っている。



「わしらは元々数が少ないのじゃ。
ただ、最近は、湖から出ることを嫌う者達が増えたというだけのことじゃ。
人間共が煩わしいと言うてな。」

「じゃ、あんたはなぜ出て来たんだ?」

「わしは、少々変わり者の龍でな……」

そう言って、龍はまた俺の鼓膜を震わせる。



「時に、そこの人間…
そこでなにをしておる?」

「な、な、なにって……」

「慎太郎は、あんたを見て腰を抜かしてるんだよ。」

「腰を…?
今時、わしの姿を見てそれほど驚いてくれる人間がいるとは、これはまた愉快、愉快!」

俺は鼓膜が破れないように必死で両耳を塞いだ。


でも、ゆかりさんとのやりとりを聞いてる限り、危険な者ではないと思えたので、怖さだけは少し和らいで……



「へぇ、そうなんですか。
そんなに長い間……」

「驚くようなことではない。
龍にとってはそれほど長いものではない。
それに、この山に住むじじいとばばあ…あやつらからすれば、わしなどただの鼻たれ小僧じゃ。」

俺達は、他愛ない話を交わした。
意外にも話好きな龍だったから話題は尽きず、俺達はけっこう長い間、話をしてた。



「わっ、龍だ。でっかいなぁ。」

しばらくして美戎が戻って来て、それからは美戎も加わって俺達はああだこうだと話に花を咲かせて…



「あ、そろそろ日が暮れて来たね。
もう帰らなきゃ…」

気が付けば、空はもう茜色に染まってた。



「そうか、今日は本当に楽しかった。
良ければまた遊びに来てくれ。」

「うん、また来るよ。
じゃあね!」