我が山ノ内家にも家系図はある。
でも、父さんはあんなのはどこまで本当かわからない…なんて言ってたけど……



「記入漏れとか、間違いなんかはないのかな?」

「じじいとばばあの言うことに、そんなことは一切ございません!」

金兵衛さんの大きな声が響いた。
この世界では、じじいとばばあの信頼度は、絶対的なもののようだ。



「……ただね……」

「何かあるのか?」

「『不明』っていうのがあるにはあったんだ。」

「不明?」

美戎はゆっくりと頷いた。



「じゃ、じゃあ、もしかして、その人に子供がいたら…」

「……おかしいですな。
じじいとばばあにわからないことがあるなんて、聞いたことがありません。
美戎さんの記憶違いではありませんか?」

「ううん、間違いないよ。
今から153年前に18歳の由香利さんって人が『不明』ってなってた。」

「153年前?
では、その者は死因が不明ということでしょう。」

「どうして?」

「もしも、その子孫がいたら、それをじじいとばばあが知らないということはありえません。
と、なれば、家系図にも記載されるはずですからな。」

「もしかして、その人が駆け落ちかなにかでいなくなって、それで行方がわからない…なんてことはありませんか?」

「そんなことがわからぬじじいとばばあではありません。」

その口調は、俺にそれ以上質問することを許さない、たいそうきっぱりとしたものだった。



「じゃあ、やっぱり、僕達は元の世界には戻れないってこと?」

「……残念ながらそういうことになるでしょうな。」

金兵衛さんのその言葉に、美戎は大きなため息を吐き出した。