「ねぇ、金兵衛さん…
結界を破る方法って、本当に他にはないのかな?」

ゆかりさんが眠りについたのを確かめてから、俺達は金兵衛さんの部屋に集まった。



「残念ながらないと思います。
じじいとばばあが言うことは絶対なのです。」

「やっぱりそっか…」

美戎のその声は寂しげなものだった。
そうだ…俺はともかく、美戎は元の世界に戻りたいはずだ。
まぁ、早百合や黒い仲間達との縁が切れると思えば、戻らない方が良いのかもしれないけど……
あ…そういえば、じいちゃんは大丈夫だろうか?
美戎を借りっぱなしにしてることで、早百合から大金を巻き上げられたりしてないだろうか?

そんなことを思うと、やっぱり元の世界のことが気にかかる。
でも、俺達に結界を破ることは出来ない。
結界を破るには、安倍川家の血が必要なんだから…



(……血?)



「金兵衛さん、結界を破るには安倍川家の血が必要だってことでしたが、それって具体的にはどうするってことなんですか?」

「それはね、慎太郎さん。
壺の傍に安倍川家の血を引くものがいればそれで良いんだ。
一緒に壺に吸い込まれようが、吸い込まれなくとも傍にいるだけでも壺の転送機能は作動するみたいだよ。」

「おや、美戎さん、よくご存じですな。」

「うん、長兵衛さんの書庫で読んだんだ。」

「なんと、兄弟子があそこへ通してくれたとは……さすがは美戎さんですな。」



なんだなんだ。
俺だって、一応は通してもらったぞ。
ただ、字が読めないから手伝えなかっただけで……



「美戎…それで、最後の小雪さんって人はいつ亡くなったんだ?
その人の子孫は本当にいないのか?」

「うん、いないよ。
あのね、家系図みたいなのがずらっと出て来て…53年前に65歳で亡くなった小雪さんが安倍川家の最後の子孫で、その人の子供は一人いたけど5歳の時、病気で亡くなったんだ。
だから、もう誰もいないよ。」

「美戎…もしかして、安倍川煎兵衛から全部の家系図を見たのか?」

「そうだよ。
ばばあが送ってくれたんだ。」

なんだか信じられないような話だけど、金兵衛さんの話によると、じじいとばばあには、知ってることを映像で見せる能力があるとのことだから、きっと、美戎は本当に家系図を見たんだろう。