「おーい。じじい、ばばあ、いるのか?」

疲れ過ぎて俺は声も出せなかった。
なのに、金兵衛さんは涼しい顔で大きな声を張りあげた。



「おや、金兵衛さん。
ひさしぶりじゃのう。」

奥から出て来たのは、腰の曲がった小柄な老人達。
なんだか双子みたいにそっくりだけど、髪の長い方がばばあで、髭を生やしてる方がじじいだと思う。
二人は俺達の事なんてまるで目に入らないみたいに、ただ金兵衛さんだけを見ている。



「今日はちょっとおぬしらに聞きたいことがあっての。」

「そりゃそうじゃろうて。
それで…例のものは…」

「心配するな。持って来ておる。」

そういうと、金兵衛さんは持っていた徳利をばばあに差し出した。



「これはこれは…」

じじいとばばあは、徳利を見てしわくちゃの顔を綻ばせた。
二人は相当の酒好きのようだ。



「それで、知りたいことと言うのはなんですかな?」

「何、異界の壺のことなんじゃ。」

「して、異界の壺の何が知りたいのじゃ?」

「あの壺には結界が張られており、それは陰陽師の血によって開くと言われておるが、それ以外に、結界を破る方法はないかと思いましてな。」

「ない!」
「ない!」

じじいとばばあの声がぴたりと重なった。



「……ないそうです。」

そんなこと、言われなくてもわかってるって!
俺達だって、すぐそばで聞いてたんだから。



「ほ、本当にないんですか?
忘れてるってことは……」



「ない!」
「ない!」

またしても、二人の声がぴたりと重なった。
愛想も何もない、潔いばかりの答えようだ。



「それじゃあ、安倍川家の子孫がどうなったかわかる?」

珍しく美戎が気の利いたことを言った。
その時になってようやく二人は顔を上げ、美戎の方を見た。


「おぉ……」

ばばあの頬がほのかに赤らみ、そして、美戎に向かって両手をさしのばした。
金兵衛さんはちょっと驚いたような顔をしながら、美戎に言った。



「美戎さん、あなたの額をばばあの額にあてるのです。」

「こう?」

美戎は戸惑いもなく言われた通りに額をくっつけた。