「ちょ…ちょっとま、待ってよ。」

「なんじゃ、若い割には体力がないのう…」

金兵衛さんはそう言って、大きな声で笑った。



まだ夜が明けきれない頃に叩き起こされ、それから籠に揺られて、見上げるばかりの山の麓で降ろされて…
それからはずっと山登りだ。
ハイキングなんて生易しい雰囲気じゃない。
道はあるにはあるが、けっこう険しい山だぞ。
俺は汗だくで、息が切れゼイゼイ言ってるのに、美戎はともかく、金兵衛さんは年寄りなのになんであんなに元気なんだ!?
一滴の汗も流れていない。



「慎太郎さん、もう少し運動した方が良いかもね。」

美戎はそんな憎たらしいことを言い残して、先へとまた歩き出した。



(畜生!
なんで山登りでまで負けるんだ!)

悔しいけど、仕方がない。
とにかく、何がなんでもじじいとばばあには会わなきゃならないんだから。
俺は歯を食いしばり、ただ、前だけをみつめて無理矢理に足を動かした。



(うぅ…目がかすむ……)

ふとよろめいて、はっとする。
下を見れば、眩暈がしそうな程の高さだ。
こんな所から落っこちたら、間違いなくお陀仏だ。
冷たい汗が背中をつーーっと伝わった。



「慎太郎さん、頑張って!
あと少しだよ!
ほら!」

美戎がそう言って指さした先には、昔話に出て来そうな小さな家がぽつんと建っていた。