(確か、このあたりのはずなんじゃが……)



ひさしぶりの旅行は楽しいような不安なような……
考えてみれば、こんな遠くに来るのは数十年ぶりのことじゃからのう。
年をとってからは、わしはずっと田舎に引っ込んどったから、久々の都会はさすがに刺激が強過ぎる。
面白い反面、いろんなものがありすぎじゃし、人も多過ぎて、なんだか頭がくらくらする。
観光案内やらなんやらで聞きこみを続けた結果、どうにかこうにか、安倍川という家がみつかった。
確か、そこは陰陽師の血を引く家だということじゃったが……




(それにしても一体どこなんじゃ?
それらしき屋敷はどこにもないが……)



「おじいちゃん、どないかしたんか?」

「は…?」

振りかえるとそこにはたいそう派手な身なりをした若い男が立っておった。



「あぁ…この番地を探しとるんじゃが……」

「どれどれ、ちょっと見して。」

若い男は、わしの持っていた紙切れを取り、安倍川家の番地を確かめよった。



「あぁ、これやったらすぐそこや。
こっちやで。」

「おぉ、そうでしたか。」

男は、親切にも案内してくれるようで、わしの前を歩いて行く。



「ほら、あそこにローポンがあるやろ?
あのへんやで」

「ローポン?」

そこには、わしの家の近所にはないが、町やテレビではよく見たことのある有名なコンビニがあった。



「そんなはずはないんじゃが…
本当に、その番地はあそこで間違いありませんかな?」

「うん、間違いないで。」

どうしたことじゃ。
あそこは安倍川さんの家のはずなのに……



「おじいちゃん、誰かの家、探してるんか?」

「そうなんじゃ。
この番地のあたりに、安倍川という家があるはずなんじゃが……」

「安倍川…?なんや、聞いたことあるような……」

「元陰陽師の一族のはずなんじゃ……」

「陰陽師!?
あぁ、思い出した!
せやせや。このあたりに確かそんな陰陽師の話があった。」

「それは本当ですかな!?」

男の話から、やはりこのあたりに安倍川家があることが確信的になって来たその時……



「慎二~~!」

若い女が、そう叫びながら男の側に駆けて来た。



「リノちゃん、ごめんなぁ…!」

「どうしたん、慎二。
待ち合わせはあっちの……」

「あぁ、ちょっとこのおじいちゃんが道尋ねたはったさかい…
なぁ、リノちゃん…ここらで安倍川さんて知りはらへん?」

「あぁ、陰陽師の…それやったら、あそこのローポンの裏え。」