「あ、実がなってる!」

「こら、でかめ、そんなに走っちゃあぶないぞ!」



次の日も、俺達は子供達と一緒に遊びに出かけた。
最近は、飛び天狗に運んでもらうのにもすっかり慣れた。
飛び天狗に対して信頼感がわいてきたからかもしれない。
最初はあんなに怖かったのに、今では眼下の景色を楽しむ余裕さえ出て来てた。
昨日、ゆかりさんにあんな話をされたおかげで、今日は気分も爽快だ。
思いっきり、子供達と楽しもうって心の底からそう思えた。



「この山…実は特別な山なんですよ。
わかりますか?」

「え…特別?」

俺はあたりを見渡した。
ざっと見たところ、特に変わった様子は見受けられない。
どこにでもありそうな山の風景だ。



「ゆかりさん…何が特別かわかる?」

「いや、全然わからない。」

「コテツさん、何が違ってるんですか?」

「この山は、実は元々は山じゃないんです。
大昔に死んだ山入道の身体なんですよ。」

「えっ!この山が……!」

信じられない想いだった。
ヨウカイの中にはこんな大きな奴がいるのか!



「ゆかりさん、山入道って知ってる?」

「あぁ、聞いたことはある。
なんでもものすごく大昔にいたヨウカイらしい。
今じゃ、もう山入道なんて一人もいない。
そうだよな?」

「ええ、もうずっと昔に絶滅してしまいました。」

「……そうなんだぁ……」

絶滅したヨウカイもやっぱりいるんだ。
そう思った時に俺はふとした疑問を感じた。



「コテツさん、そんな昔のこと、どうしてわかるんですか?
ここには昔のことを調べてる学者のような人がいるんですか?」

「学者…?
それはどういう人達ですか?」

コテツさんだけではなく、ゆかりさんもきょとんとした顔をしてる。
どうやらこの世界には学者という職業は存在しないようだ。



「えっと、この山のことのような大昔のことを記録してるのは……」

「あぁ、そういうことは陰陽師がします。
昔の話はじじいとばばあに聞くことが多いです。」

「じじいと……ばばあ?」

まさか、どこにでもいるおじいさんとおばあさんのことじゃないだろう。
それとも、年寄りの伝承を聞いたってことなのか?



「なんだ、慎太郎…じじいとばばあのことも知らないのか?」

「う、うん……知ってるような、知らないような……」

「じじいとばばあは、なんでも知ってるんだ。」

「なんでも?」

「そうだ…じじいと……あ!あしでか!大丈夫か!?」

俺はよく意味がわからなかったけど、ちょうどその時木登りをしていたあしでかが足を滑らせたことから、その話はそこで中断されてしまった。