(今夜も帰って来ないのかな?)



あれから美戎はずっと書庫にこもりっきりで…
俺達は、このあたりのちょっと珍しい所を飛び天狗達に案内してもらっては遊ぶばかりで…



俺だって、何か手伝いたいとは思ってる。
なんせ、今回のことは俺が元の世界に戻れるかどうかってことに大きく関わってるんだから。
でも、字が読めないんだから手伝いようがない。



「ゆかりさん…ちょっといいかな?」

「なんだ?」

「うん…美戎のことなんだけど……」

「あぁ…なんか忙しそうだな。」

それは意外にも素っ気ない返事だった。



「え、う、うん。
それで…俺も手伝いたいんだけど、俺はまだこの世界の字が読めないし…」

「この世界?」

まずいことを言ってしまったと思ったけど、もう遅い。
ここはなんとか誤魔化すしかない。



「え……あぁ、そ、その…えっと…
お、俺、子供の頃は病気がちで、あんまり学校に行けなくて……」

俺は自分で吐いた咄嗟の嘘に、呆れていた。
あまりにも酷い嘘だ。
こんなへたくそな嘘で、ゆかりさんを誤魔化せるはずがない。



「そうだったのか…そりゃあ大変だったな。」

「え…ええ…っ?」

「……どうかしたのか?」

「え?あ、あぁ…そ、その……
だ、だから、俺……美戎は忙しくしてるのにこんなに遊んでて良いのかなって……」

「なんだ、そんなことを悩んでたのか……」

ゆかりさんはそう言って、ふっと笑った。



「あんただって、ちゃんとやってるじゃないか。」

「ちゃんとって…ただ遊んでるだけだけど……」

「……子供達と一緒にいられるのもそう長いことじゃない。
その間に、楽しい思い出を作ってやること……
それは、あんたにしか出来ないことじゃないのか?」

「え……」

「これは、美戎には出来ないことだ。
父ちゃんであるあんたじゃなきゃだめなんだ。
そうだろ……?」

俺の胸は震えた。
そうだ…子供達とはもうすぐ別れなきゃならないんだ。
そんなことも知らず、子供達は無邪気に遊んでるけど……
そうか…これは、この穏やかな日々はとても大切なことだったんだ。



「ゆかりさん…ありがとう!」

あぁ、やっぱりゆかりさんはすごい人だ。
俺なんかよりずっといろんなことがわかってる。



こんな人がずっと俺の傍にいて、俺のことを支えてくれたら……



かっぱだとか人間だとか、そんなことはもう関係ない。
俺はゆかりさんへの想いが強くなるのを感じた。