「……あたいが育てるよ。」

「……え?」

「だから…あいつらのことはあたいが育てるって言ってるんだよ。」

ゆかりさんは立ち止まり、俺の目をみてはっきりとそう言った。



「で、でも、ゆかりさん……」

ゆかりさんはまたゆっくりと歩き始めた。



「あたいには家族はいない。
帰る家もない。
あいつらのことは小さい頃からずっと育てて来たんだし、あいつらもあたいのことを母ちゃんみたいに想ってくれてるから…」

「良いの…?
本当に、それで……」

ゆかりさんは黙ったままで頷いた。



「そう…俺もそう出来たら安心です。
ゆかりさん以上に、信頼できる人はいないから。」

ゆかりさんは不意に振り向き、どこか驚いたような顔で俺をみつめた。



「あたいのこと…本当に、信頼してくれるのか?」

俺の頭の中には、過ぎ去ったあの日のことが思い出されていた。
そうあれは、美戎がミマカさんのお屋敷にいた頃…もしも、ミマカさんが美戎のことを手放してくれなかったら、ゆかりさんは俺に着いて来てくれるかどうか訊いたんだ。
心の中では半ば諦めていた。
そもそも、ゆかりさんが俺のボディガードになってくれたのは、多分、美戎が来たからだ。
だから、美戎が行かないとなったら、きっと着いて来てくれないだろうって思ったんだ。
なのに、ゆかりさんは俺に着いて行くって言ってくれた。
あの時は、本当に嬉しかったし、ゆかりさんのこと、信頼できる人だって思った。



「もちろんですよ。」

その言葉に嘘はない。



「……そっか。ありがとう。」

素っ気なくそう言うと、ゆかりさんはまた歩き始めた。



「ゆかりさん…実は、長兵衛さんが子供達を育てるって言ってくれて……」

「え?」

「それで、良かったら、ゆかりさんもここに住まないかって……」

「え?いていいのか?
あたい、この村に住ませてもらえるのか?」

「うん。」

ゆかりさんは、びっくりしたような顔で、その場に立ち尽くした。