「わぁ、でっかい湖だなぁ…!」

「こら、あんまり近付くんじゃないぞ!
落ちたら大変だからな!」

俺達は、飛び天狗に連れられて、近くの湖に遊びに行った。
深い緑色をした海みたいに広い湖だ。
子供達は、そんな大きな湖を見たことがないから、けっこう興奮しているようだ。



「大丈夫ですよ。
我々がみてますし、ここにはぶくぶくがいますから。」

「……ぶくぶく?」

「慎太郎、知らないのか?
溺れた者をみつけると助けてくれるっていうヨウカイだ。」

「へぇ…」

「ぶくぶくは綺麗な湖にしか棲んでないし、悪い奴は逆に湖の底に引きずり込むんだ。」

「それはただの伝説ですよ。
ぶくぶくはどんな奴も助けます。
だから、心配しないで遊ばせてやって下さい。」

「あ、じゃあ、いっそのこと泳いで来たらどう?
ゆかりさん、泳ぎは得意なんでしょう?」

俺がそう言うと、ゆかりさんはなんだかすごく機嫌の悪そうな顔をして、一人で歩き出してしまった。



(……どうしたんだろ?)



「ゆかりさん…!待って!」

声をかけてもゆかりさんは歩を緩めることも振り向くこともない。



「ゆかりさん…!」

俺は小走りでゆかりさんに追いついた。



「ゆかりさん、どうかしたの?
俺、何か嫌なこと言った?」

「……別に……」

口ではそう言ったけど、ゆかりさんは俺の方を少しも見なかった。
俺はどうしたら良いのかわからず…仕方なく、そのままゆかりさんの後を着いて歩いた。



「……この先、どうすんだ?」

「えっ!?」

しばらく黙ったまま、湖の周りを歩いていたら、不意にゆかりさんがそんなことを俺に問いかけた。
もちろん、本当のことなんて言えない。
だから……



「ま、まだ決めてないんだ。」

曖昧にそんなことを言って誤魔化した。



「でも…長兵衛さんに届け物は済んだわけだし、あんたは家出して来たようだが、もういいかげん帰る気にもなってるんだろ?
あんたの爺さんは、美戎に頼むくらい、あんたを探してるわけだし。」

「う、うん、まぁ、そうだね。」

「……あいつらのことはどうするつもりだ?」

「え……あ、うん……」

「……家には連れて帰れないんだろ?」

「え……」

俺はますます言葉に詰まった。