「うわっ!なんだ、これ!」

「あ、慎太郎さん…」



昼になっても美戎と長兵衛さんは部屋から出て来なかった。
だからちょっと気になって、俺は、美戎達のいる書庫に案内してもらった。
そこはとんでもなく広い部屋で、その壁一面には本がずらっと並び、墨のようなカビのようなにおいが漂っている。
美戎や長兵衛さん、そして、長兵衛さんの弟子らしき、例の飛び天狗と鬼が、本の散らかる通路に座り込んで、一心不乱に本を読んでいた。



「ここにある書物はとても貴重なものです。
書物には決してお手をふれないで下さい。」

俺をここに案内してくれた赤い鬼が小声でそう言った。



それを言うなら美戎にだろう?
そう思いながらも、俺ははいはいと頷いた。



「長兵衛さん、なにかわかりましたか?」

「いえ、残念なことにまだ何も……」

「でもね、ここにはこの世界の歴史のことやヨウカイのことが書かれた本がいっぱいあるからすっごく面白いんだ。」

俺はまだほとんどこの世界の文字が読めない。
なのに、美戎はほとんど読めるようなことを言う。
おかしい…一体、どういうことだ?



「美戎さんのおかげで本当に助かっています。
彼は読むのが早いですし、一度読んだことをしっかりと覚えていらっしゃる……本当にたいしたお方です。」

長兵衛さんの言葉に、弟子達も深く頷く。
俺にはとても信じられないことだけど。



「慎太郎さん、とにかくここの本を全部調べてみるから、その間、慎太郎さんは好きにしてて。
あ、子供達と一緒にこのあたりの観光でもさせてもらったら?」

「それはよろしゅうございますな。
このあたりには少々珍しい場所もございますし…サブ、早速手配を…」

「はい!今すぐに…!」

俺は、まるで邪魔者扱いだ。
ま、確かに、字が読めない俺には何の手伝いも出来ないけど……

俺は手招きする赤鬼の後をとぼとぼ歩いて部屋を出た。