「ど、どうしたの?」

「あ、す、すまん!」

「もしかして、寝てたの?」

「え?あ、あぁ、そうみたいだ。」

「もうそろそろ夜が明けます。
眠いのも当然です。
遅くまですみませんでした。
さ、さ、早く休んで下さい。」

「い、いえ、こちらこそ。
どうもありがとうございました。」

俺達はそそくさと、長兵衛さんの部屋を離れた。



「慎太郎さん、さっき、ゆかりさんの夢を見てたんだね?」

「そ、そんなもの、見てない。」

「だって、ゆかりって言ってたよ。」

「ち、違う!
お、俺はさっき、ゆかりごはんをだな…」

「ゆかりごはん?
あぁ、赤シソのふりかけのあれだね。
あんなのが食べたいだなんて、慎太郎さん、すっぱいものでもたべたかったのかな?」

「た、多分そうだな。
こっちに来てから、あんまりすっぱいもの食べてないからな。」

「確かにそうだね。」

俺のへたくそな言い訳で、美戎は簡単に納得してくれた。



「じゃあ、おやすみ。」

「おやすみ。」



横になっても、さっきの妄想が頭から離れなかった。



もしも、本当にゆかりさんが俺と一緒になってくれるなら……



『なにを言ってるんだ、慎太郎。
あいつはヨウカイだぞ。
しかも、かっぱだ!
そんな者を本気で愛せるというのか?』

『慎太郎さん、そんなこと少しも気にすることなんてないわ。
愛するのに、種族や見た目なんて関係ない。
大切なのは、あなたの気持ちよ。』

俺の中で天使と悪魔がせめぎあう。



自分でもよくわかってるんだ。
かっぱを好きになるなんて、どう考えてもおかしいってことは。
でも、長い間一緒にいて、ゆかりさんの真面目さや優しさにひかれてるのは本当のことだ。
ただ…その気持ちが尊敬のようなものなのか、それとも恋愛感情なのかがわからない。
いや、さっきあんな妄想をしてしまったくらいだ。
どちらかっていえば、きっと恋愛感情に近いんだと思う。



(そうだ、俺…やっぱり、ゆかりさんのことが好きなんだ。)



でも、ゆかりさんにはすごく失礼なことだけど、どこか恥ずかしいような気もするし、人間じゃない者を愛するなんて、なんだか神の摂理に反してるような気も……



(あぁ、どうすれば良いんだろう??)