(もしも、元の世界に戻れなかったら……)



そっと目を閉じた俺の頭に妄想が広がる…



「あ、父ちゃん、お帰りー!」

赤い夕暮れ……今よりも少し大きくなった子供達が、俺の姿をみつけて駆け寄って来て……



「ただいま。
おまえ達、今日も良い子でいたか?」

「おいら、今日、字がうまくなったって長兵衛先生に褒められたんだ!」

「おいらも!」

「おいらも!」

あしでかだけが何も言わず俯いて…



「どうした?あしでか。」

「おいらは…誉められなかった…」

「そうか、じゃあ、これから褒められるように頑張れば良いさ。」

俺が、あしでかの頭をなでると、あしでかは嬉しそうな顔で俺を見上げて…

「う、うん!
父ちゃん、おいら、頑張るよ!」



子供達に取り囲まれながら、やがて家に着く。
香ばしいにおいが家の中から漂っていて、俺の食欲を刺激する。



「ただいま。」

「あ、お帰りなさい。」

前掛けで手を拭きながら、家の中からはどこか慌てた様子のゆかりさんが俺達を出迎えて……



「あ、あんた、ごめんよ。
今、ちょっと魚を焼いててね。」

「あ、そりゃあ大変だ。
俺もなにか手伝おうか?」

「いいんだよ、あんたは座って待ってておくれ。
もう、時期に出来るからね。」

俺とゆかりさんと子供達で囲む食卓…
他愛ない話にみんなが笑って…贅沢は出来ないけれど、幸せを感じられるひと時だ。

その後は、子供達と一緒に風呂に入ってわいわい騒いで……



そして、子供達が眠り、やっと静かになった頃、俺達も眠りに就く。
部屋の中には、ふとんが二組並んで敷いてあって…



「……あんた、寒いからそっちに行って良いかい?」

ゆかりさんが伏し目がちに、そう呟く…



「あぁ、いいとも。」

そう言いながら、俺は掛け布団を持ち上げてゆかりさんが来るを待つ。



ほんのりと頬を染めたゆかりさんはどこか恥ずかしそうに俺の布団に入って来て、俺の目をじっとみつめる。
やがて、ゆかりさんと俺の顔が少しずつ接近して…



「慎太郎さん…」

「ゆかり……」

「慎太郎さん!!」

目を開けると、俺の前には美戎がいた。



「う、うわっ!」

反射的に俺は美戎を突き倒していた。