長兵衛さんは、俺の期待を裏切るように、俯いたまま小さく首を振った。



「え……?」

「残念ながら…この世界にはもう安倍川家の子孫は残っておりません。
私達、陰陽師は安倍川の姓を継いでおりますが、それは弟子だというだけのこと。
安倍川家の血縁というわけではないのです。」

「そ、そんな…だったら俺達は……」

「明日から早速、他に方法がないか調べてみます。」

「よ、よろしくお願いします!」

頼みの綱は長兵衛さんしかいない。
ようやく壺のありかがわかったと思ったら、まさかこんなことになろうとは……



(あぁ、あの時、蔵の中に入ったりしなければ…)



今更そんなことを言ったところで仕方はないけれど、やっぱりそれが一番悔やまれる。
じいちゃんや父さん、母さんも心配してるだろうし、美戎なんて、俺のせいでとんだとばっちりを受けて……



「美戎…もし、帰れなかったらどうする?」

「帰れるよ~
きっと、なにか方法があるって。」

この状況で、なにを根拠にこいつはこれほどポジティブでいられるんだろう?



(良いな、あほって……)



「長兵衛さん、明日からは僕も手伝うよ。」

「ありがとうございます。」

手伝うって一体何を手伝うって言うんだ。
何も出来ないくせに、本当にお気楽な奴だ。



「ねぇ、長兵衛さん…
他所の世界から来た二人のことだけど、どういう記録が残ってる?
慎太郎さんの祖先は、なぜここに来たの?」

「なんでも山ノ内さんが莫大な富を得たことが事の始まりだとか。
湯水のように金を遣った山ノ内さんは、金では買えないようなものがほしくなった。
そこで、陰陽師の安倍川に依頼して、あの壺に術をかけさせ、この世界にやって来たということです。」

「……ありがちだよね。
お金がありすぎると、人間ってついついおかしなものがほしくなるんだよね。」

美戎は納得したように何度も頷く。



「しかし、山ノ内さんは一年もしないうちに元の世界に戻られ、一方、安倍川はこの世界の事をたいそう気に入って、家には戻らなかったってことですよ。」

「へぇ…そうなんだ…」

「安倍川には何人もの妻がいたとか……」

「あ、それが、この世界に住み着いた理由だったりしてね。」

そう言って、美戎は笑う。



美戎よ…なぜ、おまえはそんなに余裕があるんだ。
元の世界に戻れないかもしれないのに……



あぁ、どうしよう…もしも、このまま帰れなかったら……



そんなことを思ったら、なぜだかゆかりさんの顔が頭に浮かんだ。