「あの…それでは、その早百合さんという方は美戎さんの……」

「う~ん…まぁ、ご主人様…みたいなものかな?」

「では、美戎さんは早百合さんの家の使用人ということですか?」

「やだなぁ…そうじゃないよ。
僕と早百合さんはラブラブだし、一緒に住んでるんだし。
それに、僕は普段部屋から出ちゃいけないから、お手伝いは出来ないよ。」

長兵衛さんはますます困惑しているみたいだ。
そりゃあそうだ。
全く意味のわからない話だもんな。



「慎太郎さん、あなたはおじいさんの蔵の壺からこちらへ来られたと言われた。
つまりは、山ノ内家のご子孫ということですかな?」

「はい、そうです。」

「それで、その…美戎さんは安倍川家のご子孫なのですか?」

「いえ。
美戎と付き合ってる人が安倍川家の人ってことで、美戎は安倍川家とは関係ありません。」

「……そうでしたか…それは困りました。」

長兵衛さんは曇った顔でそう呟いた。



「あの……なにが困ったんですか?」

「実は…先程もお話した通り、こちらの壺には結界が張られております。
そうでなければ、好き勝手にそちらの世界に行く者が出てしまいますからな。」

「それが何か?」

俺の質問に、長兵衛さんは目を伏せ、大きなため息を漏らした。



「実は…その結界を破るにはあるものが必要となっておりまして……」

「そ、それは、何なんですか?」

「安倍川家の者の血です……」

「血!?それがないと、どうなるんですか?」

「壺の結界は破れず、あなたの世界と通じません。」

「な、な、なんだって~~~!」

だったらどうなるんだ?
美戎は、安倍川家とは関係ないし、俺は山ノ内だし……



「山ノ内ではだめなんですか?
俺の祖先も、安倍川さんと一緒にこっちの世界に来ましたが……」

「安倍川はずっとこの世界に留まりましたが、あなたの祖先はしばらく滞在したら元の世界に戻り、そしてその後は来られなかったとのこと。
ですから、安倍川家の者でなくては繋がらないように、結界を張ったのだと思います……」

「そ、そんな……」

「ねぇ、この世界に安倍川の子孫はいないの?」

「え?あ、そ、そっか。その手があったか!」

美戎が珍しく良いことを言った。
そうだよ、安倍川さんはこの世界に留まったってことだから、子孫がいてもおかしくない。