「長兵衛さん……?」

長兵衛さんはお茶をすすり、大きなため息を吐き出した。



「本当に申し訳ありません。
あやつは昔から要領の良いところがございましてな……」

「どういうことなんです?」

「実は……あなた方の世界と繋がった壺は、金兵衛の屋敷にございます。」

「えっっ!」
「えっ!」

俺と美戎の声が重なった。



「煎兵衛は、自分の世界とここを繋ぐ道を作った。
その入り口と出口となるのが二つの壺です。
異なる世界から元の世界に帰る時には出口が入り口となります。
つまり、金兵衛の屋敷の奥座敷…あそこに置いてある壺こそが、あなた様の世界と繋がった壺です。」

「えっ!?そ、そんな……
あそこに壺なんて……」

「……あったよ。」

お菓子を口に運びながら、美戎は事もなげにそう呟く。



「え……?」

「部屋のこっちっ側の隅っこに壺があったよ。
おじいちゃんの蔵の壺とは、柄はちょっと違うけど、小鳥の描かれた似たような形の壺だったよ。」

美戎は手で方向を指し示しながら、そう言った。



「そうそれです。
それが、あなた方の世界に繋がる壺です。」

「な、な、な………」

驚きと怒りと……その他いろんな感情が一気に込み上げて来て、俺は言いたいことがうまく言えず、ただ口がぱくぱく動くばかりで……
だいたい、美戎はなんでそんなに壺のことを覚えてるんだ!?
俺はあの時、突然、周りの景色が変わったことで半ばパニックになっていて……
そして、そこにあの老人が現れたから……



「おそらく、金兵衛はあなたが来られたことで、今回の計画を思いついたのでしょう。
奴は、私に頼まれた本のことは気になりつつも、ここまで持って来ることがなかなか出来なかった。
なんせ、ここに来るまでには路銀も相当かかります。
あやつは金を使うことが大嫌いですし、塾やら食堂を何軒も経営しておりましてな…
長い間、留守をするのもいやだったのでしょう。
そこで、奴はそんな嘘を……
壺のありかを私が知っているといえば、あなた方は何がなんでもここに来られる。
そのついでのふりをして、本を託した……と、まぁ、そんなところでしょうな。
……全く申し訳ございません。」

あのじいさん、なんだか胡散臭い奴だとは思ってたけど……まさか、騙され、そんな風に利用されていたとは……



(畜生~~!)

頭に浮かんだじいさんの顔に、俺は連続パンチを食らわせた。