「な、なんですと!?」



ゆかりさんや子供達が寝静まった頃、俺と美戎はそっと部屋を抜け出した。
向かうは長兵衛さんの部屋。
長兵衛さんはお茶とお菓子を用意して、俺達のことを待っていてくれた。
俺達はすべてを打ち明けた。
俺がじいちゃんの蔵の壺に吸い込まれてここに来てしまったこと、そして、俺を探しに美戎もここに来たことを……
長兵衛さんはその話に酷く驚いて、俺と美戎の顔を交互にみつめてた。



「では、あなた方はおじい様の蔵にあった壺によってただ吸い込まれた…と…」

「うん、そうだよ。」

「そうですか。
では、そちら側の壺には結界は張られていないのですか?」

「……結界?」

「慎太郎さん、聞いたことないの?
ざっくり言うと、見えないバリア…みたいなもんだよ。」

そのくらいのこと、俺だって知ってるさ。
それこそ、アニメかなんかで見たことあるし。
俺が言いたいのはそういうことじゃなくて……



「長兵衛さん、僕らの世界の壺にはそんなものはなかったよ。」

俺が話そうとしたら、美戎がさらに言葉を続けた。




「なんと、不用心な!!」

穏やかな長兵衛さんが、初めて感情的な声を上げた。



「で、でも、俺は小さい頃から蔵には近付いちゃいけないって言われてましたし、俺の親父もそう言われてたらしいですし……」

「しかし、あなたはその言いつけを破られた……」

「え……?そ、それは…その、まぁ…そうなんですが……」



あ~あ…俺ってつくづく駄目な奴……
俺がつまらない好奇心を持たなけりゃ、今、こんなことにはなってないのに……



「つまり、慎太郎さんは意図してここに来たわけじゃなくて、アクシデントで来ちゃったんだ。
だから、僕達は早く元の世界に帰りたいんだよね。
それでね、金兵衛さんに元の世界に帰る方法を聞いたら、元の世界に繋がった壺に吸い込まれたら良いってことで、その壺のありかは兄弟子さんが知ってるって…
それで、ここまで来たんだ。」

「そちらの世界に繋がった壺ですと?
金兵衛の奴……なぜそんな……あ……」

長兵衛さんは何かを思いついたようにそう言うと、俺の顔を、何とも言えない憐れみのこもった瞳でみつめた。