それからはけっこうのんびりした旅となった。
というのも、美戎が強いってわかったから。
美戎がいてくれたらなんとかなるって安心感のおかげで、山に入ったばかりの頃のようなピリピリした緊張感はなくなっていた。




「今夜はこのあたりで休むとするか。」

「そうだね。このあたりなら見晴らしも良いし、誰かが近付いて来てもわかりやすいもんね。」

僕達の登った山は本当に大きい。
山なんて、せいぜい一日もあれば越えられるものかと思ってたけど、あたりの景色はまだほとんど変わらない。
でも、この山さえ越えれば、兄弟子さんのいる村に着くんだから、なんとしても頑張らないと……



「夕飯はどうする?
あるもので簡単に済ませるか?
それとも、作っても大丈夫かな?」

「美戎がいるから大丈夫だよ。
母ちゃん、おいら、腹減った!」

「おいらも!」

「おいらも!」

「じゃあ、お前たち、薪を拾っておいで。
あ、遠くに行っちゃだめだよ。
探すのはここから見える範囲内だよ。」

ゆかりさんは、お母さんがすっかり板に付いてる。
子供達も、ゆかりさんのことは「母ちゃん」と呼んでいる。
そして、俺のことは「父ちゃん」だ。
だけど、皮肉なことに、ゆかりさんは俺じゃなく美戎に好意を持ってるようだ。
まぁ、それも当たり前と言えば当たり前だ。
脳みそは多少足りないとはいえ、美戎はあの通り、アイドルさながらのルックスの持ち主だし、その上、あんなに強いんだ。
それに引き換え、俺と来たら、ルックスは良く言っても人並み、飛び天狗が来た時はビビってしまって何も出来なかったし、その上、天国でのことがある。
あの後、ゆかりさんは俺に冷たかった。
かっぱだとはいっても、ゆかりさんも女の子だ。
あんなところに行く男に嫌悪感を抱くのは当然のことだろう。
しかも、とんでもないお金を遣ってしまったし、それに一緒に行った美戎はお酒を飲んだだけで帰って来たっていうんだから、俺の株が下がるのもあたりまえだ。



(はぁぁ……我ながら情けない……)



改めて俺の気持ちが沈みこんだその時、頭上から大きな羽ばたきの音が聞こえた。