「それじゃあ、気を付けて行くんじゃぞ!」

「……はい。ありがとうございます。」



次の日、俺は老人の元を旅立った。
いまだになんだかよくわからないみみでかとあしでかとはなでかを連れて。
奴らはまだ足もしっかりしていないから、しばらくはかごに入れて背負って行くことにした。
だけど、身体は小さいのに、こいつら、やけに重いんだ。

それにしても、なんだか胡散臭い老人ではあったけど、多少のお金と当座の食料、そして旅の初心者向きの旅人セットまで持たせてくれた。
……あの老人、思ったよりも善い人なのかもしれない。
元はといえば、こんなことになったのも、俺がじいちゃんの蔵の壷に吸いこまれたせいだし、こんな奴らを三匹も引き連れて行く羽目になったのも、俺が感情的になったせいだ。
それに、こいつら育っていくうちにだんだん強くなって、用心棒になってくれるような話だったから、そんな大切なものをただでくれたわけで…
その上、こんな俺をほっぽり出すこともなく、泊めてくれた。




(……もっとちゃんとお礼を言ってくれば良かった。)



見ず知らずの…こんなわけのわからない世界をたった一人で旅することへのプレッシャーが大きすぎて、俺はすっかり憂鬱な気持ちになっていた。
そのことで、頭がいっぱいだったんだ。
だから、お礼どころかろくに挨拶さえせずに老人と別れたことを、俺は今頃になって後悔していた。



(あ~あ……
俺って本当に駄目な奴……)



老人のくれた地図はおおまかで、しかも文字が読めないのでよくわからないが、赤い丸印を付けられた兄弟子のいる村には、まっすぐに行けば二ヶ月弱で着くとのことだった。
この世界には、大昔の籠のような乗り物しかないらしい。
人間の籠は運賃が高く、妖怪の籠は物騒なことがよくあるから、絶対に乗るなと釘を刺された。
徒歩で二ヶ月弱なんて、俺の世界じゃあり得ない話だ。
でも、乗り物がないのならそんなことを言っても仕方がない。
とにかく、俺には歩いて行くしかないんだ。



三匹は俺のこんな気持ちも知らずに、時折、興奮したような声をあげて騒いでいる。
産まれたばかりのこいつらにとっても、ここは初めての世界なんだ。
見るものすべてがもの珍しいんだろう。



……って、あたりに広がるのは田畑ばかりで、たまにぽつんと民家があるだけなんだけど。



とにかく、今は余計なことは考えず、歩く事だけを考えよう。
俺は、気持ちを切り換え、まっすぐ前を向いて足を踏み出した。