「び、美戎……さっきの……」

「慎太郎さん!一生のお願いだよ!
お弁当、わけてほしいんだ。」

「え……あ、あぁ……」

今の刺激が大きすぎて、俺は食欲なんて全くなかった。
だから、俺は素直に弁当を差し出した。








「あぁ、おいしかった。
ちょっと食べ足りないけど……」

美戎はそう言うと、水筒の水をごくりと飲んだ。
子供達も食事をして満足したのか、木の根元に集まって眠そうな顔をしていた。
俺は食欲はなかったけど、ゆかりさんが心配するから、彼女のお弁当を少しわけてもらって無理矢理口に放り込んだ。
でも、あたりにはまだ血の跡が残ってるし、気持ち悪くて、味なんて少しもわからない。



「美戎、さっきのあれなんだけど……」

「あれって?」

「だから、飛び天狗を一瞬でやっつけた……」

「あぁ、あれは、なんとかっていうアニメで覚えたんだ。」

「ア、アニメ……?」

そういえば俺もなんか見たことあるなって思ってたんだ。
そうだ…確か、昔のアニメの再放送で見たんだ。
何とかの拳ってあれだ、きっと。
でも……アニメで覚えたって……
何で、修行もせずにアニメの技を習得できるんだよ!?
いや、そうじゃなくて、アニメの技なんかどうやったら現実に出来るんだよ!




「あんた、見かけによらずすっごく強かったんだな。」

「そう?僕も実際に試してみたことはなかったから自信はなかったんだけど、ちゃんと出来て良かったよ。」

ゆかりさんは、アニメのことを知らないからか、あんまり疑問は感じてないみたいだし、「すっごく強い」ってことだけで簡単に済ませてるけど…
さっきの美戎の跳躍は異常だぞ。
あいつ、翼もないのになんであんなに飛べるんだ?
しかも、刃物も使わずあんなにすっぱり…理屈がわからん!
その上、切られた飛び天狗達は死んでないし……



「ね、ねぇ…あの飛び天狗達、大丈夫だったのかな?」

「さぁな。
このあたりに腕の良い医者でもいればなんとかなるんじゃないか?
でも、あんな奴らに情けをかけてやることなんてないのに……」

「う~ん……
でも、奴らにも多分何か事情があるんでしょ?
だからこそ、こんな山の中に住んでる……
そう思ったら、殺しちゃうのは可哀想に思えちゃって……」

「……あんたって、本当に優しいんだな……」

ゆかりさんは吐息混じりにそう呟いた。