「あぁ、疲れた。
僕、お腹ぺこぺこだよ。」

「おいらも!」

「おいらも!」

美戎の言葉につられて、子供達も声を上げた。
まだ危険地帯に入ったばっかりだっていうのに、本当に緊張感のない奴らだ。



「ねぇ、ここらでお昼ごはん食べようよ。」

「ここはあまりに目立ちすぎる。
どこかもっとこう隠れられる場所の方が…」

「もうっ!ゆかりさんは心配性なんだから。
大丈夫だよ。
ここまで何も出てこなかったし、きっと何も出て来ないまま、山を越せるんじゃないかな?」

楽観的というのかなんというのか…なんとも根拠の薄い推論だ。



「だけど……」

「大丈夫だってば。
何か出て来たら、僕がやっつけるから……
本当に僕、おなかがすいてたまらないんだ。
これ以上我慢してたら、いざという時に元気が出ないかもしれないし…」

何が「やっつける」だ。
喧嘩の一つもしたことないくせに…
でも、今のこいつには何を言っても聞かないだろうと思った。
それに、ゆかりさんもきっと許すだろう。
だって、上目遣いでゆかりさんをみつめる美戎の視線に、ゆかりさんの顔色はなんだかおかしなことになってたから…



「じゃ、じゃあ、チビ達と一緒にさっさと食べろよ。
あたいと慎太郎で見張ってるから。」



え?俺も見張り!?
俺だって疲れてるし、お腹もすいてるのに……

ちょっとはイラッとしたものの、美戎はあほなんだからそれも仕方のないことか…
それに、ゆかりさんは俺のことを信頼してくれたってことだもんな。
そう考えると、イライラした気持ちもどこかへ吹き飛んだ。

美戎と子供達は、広げた布きれの上に座って、袋の中から弁当を取り出した。



「慎太郎、注意しろよ。
奴ら、どこから現れるかわからないからな。」

「う、うん、わかって……」

僕が言葉を言い切らないうちに、バサバサッという荒々しい羽ばたきの音と共に、数人のヨウカイ達が僕らの周りを取り囲むように降り立った。