「うん、やっぱり素敵だよ。
とっても可愛い。」

「もう、その話はいいって!」



次の日の朝早く、俺達は宿を発った。
ゆかりさんは、あれ以来、何も言わなかったけど、今朝はあの服に着替えてて……
きっと、美戎の想いを感じてくれたんだと思う。



俺が天国に行ったせいで、路銀はすっかりなくなったけど、旅人セットデラックスや籠パスのおかげでそれほど困ることもなく、どうしても金の必要な時はバイトをしてしのいだ。



そんな毎日を繰り返しているうちに、いつの間にか月日は流れ……
ついに、俺達は老人の兄弟子の住む村の近くまでたどり着いていた。



***



「地図で見る限り、あと少しだね。」

美戎が地図をみつめながら、そう言った。
美戎の口調は普段通りのものだったけど、その言葉には重みが感じられた。
確か、あの老人は二ヶ月くらいで着くみたいなことを言ったけど、ここまで来るのに一年近くかかってるんだから。
何度かは籠も利用したけど、ほとんど徒歩でこんな長い旅をしたのは当然のことながら初めてだ。
多分、自転車で世界一周をしたような…いや、きっとそれ以上の偉業だと思う。



「本当に長かったよな。
早く用事をすませてゆっくりしたいな。」



俺がそう言った途端、ゆかりさんが俺の顔を鋭い視線で睨みつけた。
俺……なにか変なことでも言っただろうか??



「慎太郎……馬鹿なことを言っちゃ困る。
ここから先はやさぐれヨウカイ達の住む危険地帯だ。
命を落としかねない場所だぞ。
真剣になってもらわないと困る。」

「え…あ、そ、そうだったね。
ごめん……」



そうだ…確かにそんな話を聞いていた。
だけど、ここに来るまで、危険なヨウカイっていったら、さむいもくらいのもので……
あとは、危険なものには一度も出会わなかったから、そんな話も忘れかけていた。
でも、今のゆかりさんの言葉で、俺はそこがとんでもなく危険な場所だということを実感した。