「ゆかりさん……」

一瞬はゆかりさんの剣幕におされそうになった俺だけど、やっぱりここははっきり言っとかなきゃいけないと思って、勇気を出して声を発した。



「ゆかりさん…あの服、俺は本当に似合ってると思ってるよ。
美戎だって、そう思ったからあれを選んだんだと思う。
ゆかりさん……どうして、美戎がゆかりさんに服をプレゼントしようと思ったかわかる?」

「そ、それは、あたいがこんなみずぼらしい服を着てるから、哀れに思ったんだろ……」

ゆかりさんは吐き捨てるようにそう言って、俺から顔を背けた。



「ゆかりさん……
あいつ…のんびりしてるみたいに見えるけど…ちょっと複雑な生活してたんだ。」

「……複雑って……どういうことだよ。」

「つまり……あいつ……昔から監禁されてて……」

「か、監禁?」

驚いた顔をしたゆかりさんが俺の方に向き直った。



「そうなんだ…美戎は監禁され、家の外には出してもらえなかった。
そして、そこにいる間はずっと白い着物を着せられてたらしいんだ。
それ以外は服を買ってもらえなくて、もうボロボロですりきれてたんだって。
美戎はそれがいやでたまらなかったって言ってた。
だから、ゆかりさんにも可愛い服を着せてあげたいって……。
あいつは、そんな想いでゆかりさんにあの服を仕立てたんだ……」

「そ、そんな……」

ゆかりさんはひどく動揺していた。
それも当然のことだ。
まさか、あの美戎にそんな暗い過去があるなんて、ゆかりさんも考えてはいなかったと思う。



「なぁ、美戎は誰に監禁されてたんだ?
一体、なんでそんなことに……」

「うん…俺もはっきり知ってるわけじゃないんだけど……
多分、両親に売られたんだ…借金のかたに……」

「えっ!!」

ゆかりさんは一際大きく目を見開き、ただただ俺をみつめていた。



「そうか……美戎にはそんな過去が……気の毒に……」

ぽつりと呟いたゆかりさんの瞳から、大きな涙がこぼれ落ちた。