「……いたか?」

美戎は顔を俯かせたまま、小さく首を振る。



「そっか……」

ゆかりさんは、いつの間にか宿を出て行っていた。
荷物はあるから、完全に俺達から離れるってわけじゃないとは思うけど、それにしても宿を飛び出すなんて……



「……僕のせいだね。」

「え?そ、そんなことは……」

「僕、余計なことしちゃったんだね。」

いつもは明るい美戎の声が、すっかり沈んでる。



「美戎、子供達の事、頼むな。
今度は俺が探して来る!」

俺はそう言い残して、部屋を飛び出した。



「ゆかりさーん!ゆかりさん、どこなんだ~!?」

けっこう遅い時間だったけど、町の中はまだ大勢の人々が行き交っていた。



「すみません。このあたりでかっぱの女の子を見ませんでしたか?」

俺は手当たり次第に声をかけ、ゆかりさんの手がかりを探した。



「本当ですか!?
あ、ありがとうございます!」

この世界ではかっぱは珍しい存在だ。
そのおかげで、何人目かでゆかりさんの手がかりがみつかった。
きっと、美戎は声をかけずに探していたんだろう。
そんなことを考えながら、俺は教えてもらった場所へ走った。




「ゆかりさん!!」

町のはずれの川のほとりに、寂しそうな顔をしたゆかりさんが佇んでいた。
街灯ヨウカイも少ない薄暗い闇の中、ゆかりさんはぼんやりと川をみつめて……
俺の声にはっとしたような顔を向け、そしてすぐにその顔を背けた。



「ゆかりさん、心配したよ。」

俺が声をかけてもゆかりさんは何も答えない。



「美戎も心配してるよ、さぁ、帰ろう。」

「……あの服は……」

「え?」

「あの服は美戎が選んだのか?」

「そうだよ。
ゆかりさん…あの柄、そんなに気に入らなかったの?」

ゆかりさんは、俺の方に向き直り、唇を震わせた。



「美戎は…一体、どういうつもりであれを選んだんだ!?
かっぱのあたいに、あんな可愛い服……似合うわけないだろ!
あんなの着て歩いたら、いい笑い者だ!」

ゆかりさんは、俺を睨みつけるようにしてそう叫んだ。