「そんなに落ち込むことないよ。
元気出しなよ。」

美戎はそう言うと、微笑みながら俺の肩を叩いた。
食事の後、買い物につきあってくれと美戎に言われ、俺と美戎は商店街を歩いていた。



元気なんて出るはずない。
俺は、数日で大金を遣ってしまった…
何十年かかかっても、稼ぎ出せるかどうかわからないほどの大金を……
しかも、遣ったのは天国で、だぞ……



こんな状況で落ち込まずにいられるはずがない。
ゆかりさんは、あからさまに俺には冷たくなったし、子供達の顔を見ると胸が痛むし、なんだかもう今すぐ消えてなくなりたいほどの気分だ。



「本当に慎太郎さんは心配症だね!
さっきも言ったじゃない。
旅人セットがあるから泊まる所は心配ないし、食料だって旅人セットにはついてるし、籠パスだってあるんだからなんとかなるよ。」

「……そうだな。」

俺はそんなことを心配してるわけじゃない。
自分自身を嫌悪してるんだ。
……と、言うのも面倒で、俺は適当な返事をした。



「さて…と。
どんなのが出来てるかなぁ…?」

美戎は仕立て屋の前でそんな独り言を呟き、店の扉を開く。



ぼんやりとしたまま、店の中に続き、そこで俺はやっと気がついた。
そう…確か、ここでゆかりさんの服を注文したんだ。



「まぁまぁ、これはこれは……
お洋服、出来上がってますよ。」

美戎の顔を見るなり、愛想の良い女主人がそう言って、棚の中から一着のワンピースを取り出した。



「わぁお!良いね。
すっごく可愛い!」

美戎は明るい花柄のワンピースを手に取って、とても嬉しそうに微笑んだ。



「見て、慎太郎さん!
これ、ゆかりさんに似合いそうだよね!」

「う、うん。そうだな。」

「ありがとう。
こんな素敵な服を作ってくれて……」

美戎はとびっきりの笑顔をを浮かべ、女主人の手を握り締めた。