「な、な、何なんだよ!
その目は!」

老人は俺の問いかけに、小さな溜め息を返し、相変わらずなんとも言えないいやな視線で俺をみつめた。



「言いたい事があるんなら、はっきり言えよ!」

「……わかってるのか?おぬしは木の実を割った時点で、そやつらの親になったのだぞ。
つまり、これから先、そやつらの面倒を見なくてはならん。
そやつらを育てるには、無論、金もかかる。
おぬしはこれから旅をしながら、その養育費も稼がにゃならんのじゃ。
……しかも、三体分……並大抵のことではないぞ。
気の毒にのう…」

「な、な、な……」

驚きと大変なことをしてしまったという後悔で、混乱し過ぎてまともな言葉が出て来ない。
怒りに任せて三つの木の実を割ったから、俺はこれからこの三体を育てながら旅をしないといけないっていうのか?
ど、どうしよう!?
い、いや、今はとにかく落ちつくんだ。
詳しく話を聞いてみればきっとなにか救いがあるはずだ。

俺は、テーブルの上にあったお茶をぐびぐびと飲み干した。



「お、俺は早く帰らないといけないんだ!
そうでないと家族が心配する。
とてもじゃないけど、こいつらを育てながら旅するなんて無理だ。」

「……そやつらを引きとってくれる者がおるにはおる。」

「そ、それなら……」



言いかけて気が付いた。
あの奥歯にものがはさまったような言い方は普通じゃない。
引き取るには、大金でもかかるということか?
俺は、早速、その質問を老人に投げかけた。



「いや、金はかからん。」

「なら……」

「……払うのは、おぬしの寿命じゃ……」

「じゅ…じゅ…じゅみょうって……は…はは………
またまたぁ、そんな冗談を……」

「わしは冗談は嫌いじゃ。」

そう言いきった老人の顔に、微笑みは欠片程もない。



じゅ、寿命って……
そんなもん、どうやってやりとりするって言うんだ!
そんなの嘘に…決まってる……
と、言いたいところだが、この世界は俺の世界とは全然違う。
そもそも、こんなわけのわからない奴らがいる世界なんだ。
しかも、こいつら、木の実から産まれて来たんだぞ。
そんなことがあるなら、寿命のやりとりだって、きっと……
考えたくはなかったが、現状を考えればそうとしか思えない。



「……寿命以外にはないんですか?」

「……あるにはある。」

まただ…また、あの「冗談は嫌いだ」と言った時の真面目くさった表情だ。
きっとろくでもない答えだろうと予想はついたが、それでも俺はその答えを訊ねた。