「それにしても、美戎……
あんな理由で大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。
ゆかりさんは納得してたじゃない。
慎太郎さんは本当に心配症だね。」




くすっと笑いながら、美戎は小さく肩をすくめた。

そりゃあまぁ確かにゆかりさんは納得してた様子だけど……
雨が降りそうだから、しばらくこの町に滞在するなんて……そんな理由…有り……??

今までも雨の日はあったじゃないか。
あ…でも、美戎と会ってからは不思議と晴れの日が多いな。
降ってもたいした雨じゃなかったり、降り出すのが町に着く直前だったり……



美戎って……もしかして、運が良い……!?



そもそも、あのルックスで生まれて来ること自体、運が悪いはずがない。
あ……でも、それからは波乱万丈の人生みたいだけど……



「あ、慎太郎さん…退屈だったら、天国にでも行って来る?」

「……天国?なんだ、そりゃ…」

「だ~か~ら~……」

美戎は俺に近付いて、耳元で囁いた。




「ば、ばかっ!
そんな所、行くわけないだろ!?」

「大丈夫だよ。
お金なら十分あるから心配しないで。」

「か、金の問題じゃない!!
つ、つまり…モラルの問題っていうか……」

「でも、ここでは非合法なものじゃないみたいだよ。」

「え……あ、そっか……」



一体、どんなところなんだろう……?
そりゃあ、俺だって男だからキャバクラくらいは行ったことがあるけど、そんなハードなものじゃない。
美戎の言う天国は、まさにそのものずばりな天国みたいだもんなぁ…



当然ながら、そんな所は行ったことがない。
これから先もきっと行く機会はない。



『行けるとしたら今だけだぞ。
こんなチャンスを逃してどうする!?』

『だめよ。そんな所、行っちゃだめ。
異世界ならなにをしても良いってものじゃないわ。』

『ふん、馬鹿馬鹿しい。
なに、真面目臭いことを言ってるんだ。
普通なら来れない異世界に来て、何も体験しないで帰るなんて、どうかしてるぜ。』

『そんなこと体験して、何になるって言うの?
あなたは真面目な人のはず。
そのことを忘れちゃだめ。』



俺の頭の中で、天使と悪魔がせめぎあう。