「慎太郎さん…服のこと、絶対に言っちゃだめだよ。」

「わかってるってば。」



なんだか感じ悪いな。
美戎の奴……何度同じことを言うんだ。
俺はおまえみたいにあほじゃない。
そんなに何度も言われなくても、言ったりなんかするもんか。



(あ…そうか……)



こいつ…自分の方がうんと稼いだから、俺のことを馬鹿にしてるんだな。
あぁ、いやだいやだ。
ちょっとばかりルックスが良いだけで気に入られて、たいした仕事もしないまま、法外な給料をもらって……
まずいよなぁ…初めて働いた所でそんないいかげんなことをされると、美戎が労働の厳しさってものを理解出来ない。
こんなことがあったら、元の世界に戻った時に、まともな給料をもらっても馬鹿馬鹿しいと感じるだろう。
そういうところから悪の道に踏み込んでしまう奴だって少なくない。
ミマカさんも本当に困ったことをしてくれたもんだ。




「それはそうと、美戎……
ミマカさんの家でのことなんだが……」

「何?」

「良いか、美戎……あそこでの……」
「あー---っ!」



突然、美戎が大きな声を出して、手を振り始めた。



「な、何なん……」



美戎の視線の先には、ゆかりさんと子供達の姿があった。




「きっと、あの子達、お腹がすいたんだよ。
僕もお腹ぺこぺこだもん。
ゆかりさーーーん!」

ゆかりさんは、なぜだか少し照れたような素振りで、小さく頭を下げた。
両手は、子供達と繋がれてるから手を振れないからだろう。



それにしても、ゆかりさんの姿を見ると、改めて感謝の念が湧き上って来る。
だって、一人で四人もの子供の世話をしてくれてるんだから……
右側には耳でか、左側には鼻でかと手を繋いで、背中の籠には足でかを入れて背負って……
でか目はゆかりさんと手を繋いだ鼻でかと手を繋いでる。



そういえば、ゆかりさんはいくつなんだろう?
当然だけど、ヨウカイの年は人間以上にわかりにくい。
雰囲気的には若い感じがするけど、それにしては子供の扱いがうまいような気もする。
それに、若い子だったら、そんなこといやがるはず…って、そうでもないか。
この世界では、まだ幼い顔をした少女が、自分の弟や妹らしき者の面倒をみてる姿を何度も見た。
きっと、ここではそういうことはごく当たり前のことなのかもしれないな。