「うがーーー」

「うがが。」

「わっ!……あぁ、びっくりした、おまえ達か……
腹がすいたのか?
もうちょっと待ってろ。
父ちゃん達、すぐに帰って来るからな。」



部屋に着くなりごろんと眠りに就いたちび達が、いつの間にか起き出して、あたいの傍に来ていた。



「うがーーー」



あたいの背中にべったりと貼りついているのは、きっとあしでかだ。
こいつは、ちび達の中でも一番の甘えん坊だ。
甲羅から伝わって来る温かな体温に、あたいの脳裏にはさっきのことが思い浮かんだ。




(美戎の奴……一体、どういうつもりなんだ……)



思い出した途端に、顔が熱く火照る。
べ、別に美戎のことを意識してるとか、そんなんじゃないぞ。
本当に違うんだから。




美戎はきっと何も考えてない……
多分…かっぱが珍しくてあんなことをしただけだろう…
甲羅がひんやりと冷たくて気持ちよかったのかもしれない。
……うん、きっと、そうだ。



それにしても、なんで美戎は…いや、あの二人はあたいにあんなに優しくしてくれるんだろう?
今までは人間からもヨウカイからも、あたいはたいてい冷たい仕打ちを受けて来た。
だから、ただ普通に接してもらえるだけで、あたいは嬉しい想いを感じてたのに、あの二人と来たら、特別優しいんだもんな。




(……なんでだろう?)



慎太郎は、あたいがあいつをさむいもから救ったことを恩義に感じてくれてるのかもしれない。
だけど、美戎は……



そんなことを考えていると、あたいの頭の中には、にっこりと微笑む美戎の顔が思い浮かんだ。



(きっと…美戎は、元々、心根の優しい人間なんだろうな。
だから、こんな嫌われ者のあたいにも優しくしてくれるんだ……



そうだ…もしかしたら、美戎なら……あっっ!)



ふと、頭に浮かんだ馬鹿馬鹿しい妄想を振り払うべく、あたいは頭をぶんぶんと振った。



「うが…」

「あ、危ないっ!」



あたいが動いた拍子に、背中にもたれていたあしでかがバランスを崩して、倒れかかったところを受け止めた。



「大丈夫か?」

「うがっ」

あしでかは、あたいにべったりと抱き付いて小さく頷く。



(……本当に馬鹿だな……)



あたいはこいつらと同じヨウカイだ。
しかも、その中でも特に嫌われ者のかっぱなんだ。
どれほど美戎が優しくて良い奴でも、あたいに特別な感情なんか持ってくれるはずがないのに……



あたいは込み上げて来る熱いものを、ぐっと堪えた。