「び、美戎……間違えてないか?
いくらなんでもそんな大金……あ!わかった!80倍じゃなくて8倍だろ?」

俺が震える声でそう言うと、美戎ばかりではなく、ゆかりさんまでもが一緒になって首を振る。



「ううん、本当に80倍だよ。」

「8倍だったらウラじゃないか。
あんた、お金の単位を全然知らないんだな。」

「え…は、ははは……
俺の両親は、俺にはお金を持たせてくれなかったから……」

不自然な答えだってことはわかってる。
でも、今の俺にはそうとしか言いようがなかったんだ。
……って、そんなことはどうでも良い。
ミマカさんって…一体、どういう人なんだ?
たった一ヶ月働いただけで8000万円も支払うなんて……頭がどうかしてるんじゃないか??
それに美戎も美戎だ。
なんで、素直に受け取るんだよ。
俺だったら、そんな金、絶対に受け取らない!




「慎太郎さん、だから心配はいらないよ。
それとね……」



そう言いながら美戎はまたカバンの中をごそごそとして……



「えっと、これ……はい。」



俺とゆかりさんの前に、各々同じものを差し出した。




「あ、これは旅人セットデラックスじゃないか!」

「それに、籠パス…!」



驚く俺達に、美戎は微笑みながら頷いた。



「宿がない所でも、これがあったら便利だからって、ミマカさんがくれたんだ。
あ、この籠パスは残念ながら天狗のは乗れないパスらしいよ。
でも、それ以外の籠ならどれでも乗れるんだって。」

「天狗の籠屋は少ないからな。
天狗の籠屋を見たら、良いことがある…なんて、伝説もあるくらいなんだ。
だから、あたい、あんなものには一生乗れないと思ってた。」

「へぇ…、そうなの?」

「……あんたら、本当に何も知らないんだな。」



呆れ顔のゆかりさんに、俺達はここの世界の人間じゃないから…なんて、言えるわけもなく……
俺と美戎は、曖昧に笑ってるしかなかった。