「懐かしいなぁ……」

田舎の風景っていうのはどうしてこうも、気分が和むんだろう。
空ひとつとっても、電線が張り巡らされた都会の空とは違い、田舎の空は色も広さも高さもまるで違う。



(これでこう暑くなけりゃ言うことないんだけどな。)



お盆休みを利用して、やって来たのはじいちゃんの住むひなびた田舎町。
母さんには旅行に行くとだけ言って、出て来た。
だって、せっかくの休みの行き先がじいちゃんの家だなんて、なんだか恥ずかしいじゃないか。
まるで、友達や彼女がいないみたいで……いや、彼女は本当にいないけど……
まぁ、どうせ家に帰ったら話すつもりだけど、堂々とは言いたくなかったってことだ。



俺は乗り換えの駅でじいちゃんの好物の温泉饅頭を買いこんだ。
いつも同じ土産を持って行くっていうのも芸がないとは思うけど、俺の地元には名産みたいなものもないし、じいちゃんはとにかくこれが好きだから。

そこからしばらく短い車両の電車に揺られ、じいちゃんの住む小さな駅に着く。
駅からは徒歩だ。
焼け付くような太陽に焦がされながら、俺は田んぼのあぜ道を歩いていく。
蝉の声も、俺の住む町とは比べ物にならないくらい元気で、耳がじんじんする。
このくそ熱い中、よくそんなに鳴けるもんだと呆れながら、俺はひたすら前を向いて歩き続けた。
じいちゃんの家は見えてはいるのに、その道程はどうにも遠い。



「はぁ……疲れた。」



ようやく辿りついたじいちゃんの家……玄関は、鍵がかかってないどころか扉まで大きく開けっぱなしだ。全く、不用心なんだから…
都会じゃとても出来ないことだ。