「おい、見えてきたぞ」

 声に起こされ、荷台から先頭を向くと巨大な城壁が見える。徐々に近くになっていく城壁は見上げるほど高く、10メートルはあるだろうか。石と鉄で作られた城壁は見るものを圧する迫力があった。

「すげぇだろ。3英雄によって導かれた人々が作り上げた王都ガンドだ」

 領地では見れることのなかった光景に感心していると御者が得意げに説明をしている。この王都で働ける事が自慢になっているのだろう。

「魔族の侵攻から人々を守るために高く丈夫な城壁に多数の結界を施したそうだ」

「お世話になりました」

 礼を述べ荷馬車を降りると御者から硬貨の入った皮袋を投げ渡される。

「少ないが盗賊をひっ捕まえた報酬だ!入学試験がんばれよ!」

「ありがとう。おっさん達も元気でな!」

 軽く手を振る輸送団を見送ると、多くの馬車や旅人の往来する大通りを抜け王都戦士養成学園の入り口についた。多くの人々が入学試験を受ける為集まり、巨大な正門を抜けていく。貴族のぼんぼんも居れば平民から成り上がるために入学を目指す者達で混雑している。
 入学試験はなんと無料、学費も最優秀なら無料、優秀なら半額、金がなくても卒業後国家に5年仕えれば免除となる。国家にとって戦力となる戦士を手に入れる為の政策らしいが、なんとなく前々世でもこのようなものが欲しかったという思いがよぎる。

「どけ! 平民共が!」

 声に振り返ると貴族の馬車が平民を追い立てるように入り口に入っていく。やはり貴族ともなると傲慢なものが多い。両親から聞いているが、歴史の長い貴族にとって平民とは奴隷と同じものであると認識している貴族がほとんどだという。いつの時代も性根が腐った奴は現れるのは当然か。正門をくぐると多くの人々が受付で試験登録の列にならび、私も受付を済ませる。

「それでは明後日の試験開始時刻には遅れないようおねがいします」

 受付を済ませると足早に街に戻る。冒険者ギルドに登録して生活費を稼がないと食うに困ってしまう。突然旅立たされた為にお金は商隊からもらった僅かなものしかない。
 大通りを通り抜け、門に近い場所に立てられている冒険者ギルド。2階建ての歴史ある石造りの大きな建物で、多くの冒険者達が出入りしていた。ギルドの扉をくぐると中は活気に溢れていた。

「ようこそ王都ガンド 冒険者ギルドへ!」

 入り口を酒場が併設され、活気に溢れるギルド内には多くの冒険者達が寛いでいる。周囲を見回すとカウンターで、愛想よく4人の受付嬢が冒険者達を相手に依頼の受領や完遂のチェックを行っている。
 受付嬢、二度目の転生しても思うのだが、何故受付担当は大抵女性なのだろう。危険地域を除けば男の受付はほとんど見かけた覚えがない。空いていた受付の前に立つと笑顔を向けられる。相変わらずどこの受付嬢も愛想が良い。

「本日はどのようなご用件でしょうか」

「冒険者登録お願いします」

「それではまずご説明いたします。冒険者ランクは試験を受ける場合を除いてGから始まり、最高ランクはSSとなります。
ランクを上げるには適正依頼を複数回行うか、ギルドの特殊依頼を受ける事で上げる事ができます。ギルドカードの複製、登録された情報をギルド外で書き換えることは重罪と成ります。また重罪を起こした場合、ギルドカードは失効いたします。
EFGは安全な場所での採取や輸送がメインとなり、討伐や護衛はDランクからとなります。またギルドランクが上がるごとに宿屋や提携武具店の優遇が行われます。以上が概要となりますが質問は御座いますか?」
 随分多くの情報を一度に伝えられてしまったが、要点を掻い摘んで理解しても大体前の世界と同じようなものだ。

「ありません。本日可能であれば試験を受けたいのですが、可能でしょうか?」

 受付嬢は一瞬驚いたような表情を浮かべた後、普段どおりだろう営業スマイルに戻る。

「試験を受ける事は可能ですが、合格率は高くありません。よろしいですか?」

「問題ありません。おねがいします」

 Gランクの雑用から始めるのも悪くはないが、学業をこなしつつ生活費を稼ぐとなると雑用でもらえる報酬では心持たない。ダンジョンに潜るにしてもランクがあったほうが面倒が少なく、素材の取引について有利になる。

「それでは少々お待ちください」

 受付嬢がギルドの奥に行くと5分ほど待たされ、案内された場所は訓練場らしく広め場所に弓的や剣用の案山子が立てられていた。それなりに暴れても問題はないだろう広さが確保されているのだろう。

「5分間耐えられればDに認められます。5分持たなかった場合、再挑戦は半年後となりますのでご注意ください」

 試験官となる男は長剣を鞘から引き抜くと両手で中段に構える。

「久しぶりにDランクへの飛び級試験に来る馬鹿が出たと聞いたが、若造とはな」

「未熟者ですが、何卒宜しくお願い致します」

 丁寧に頭を下げるが、気に食わなかったのか表情が曇る。

「おいおい、冒険者がそんな態度でどうする。食って掛かるくらいの根性でこい」

 教官の言うとおり威圧も必要なのだが、どうにも敵意がない相手に対して攻撃的言葉を放つのは苦手だ。

「アイスソード ワンハンド」

 無言が回答であるように、長剣サイズの氷の剣を構築し右手に掴み構える。

「物質系魔法剣使いとは珍しい」

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 物質系魔法剣。剣に属性や能力を付与する魔法剣とはことなり、属性そのものを剣の形状に構成する。
 氷なら鋭い切れ味と引き換えに強度が低く、土属性なら強度はあるが切れ味が酷く悪い。
 炎や雷等は切る事受け止める事は出来ないが直接属性を標的に与える。
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「若造、いくぞ!」

 試験官の左右織り交ぜた斬撃、強度が並みの長剣程度にも満たないアイスソードでは受け流す事しかできず、徐々に押されてしまう。少しずつ剣へのダメージも蓄積し、アイスソードから伝わる振動は明らかに長くは持たない事を伝えている。

「どうした!防ぐだけで手一杯か!」

 鋭く重い突きを受け止め、衝撃を殺す為1メートル程度後ろに飛んでアイスソードが砕けるのを防いだが、 試験官はこちらに僅かな余裕も持たせず、さらなる踏み込みで1メートルの距離を一気に詰めると再度突きの体制に入っている。

「アイスソード セカンダリ」

 もう一本氷の剣を構成し、二度目の突きを片手で受け流しもう一方の剣を首元に突きつける。

「・・・・・・Cランクの俺が新人に負けるとはな」

 前世と同じ判断基準なら元の実力はSSクラス以上なのだが、今はまだ頭のイメージどおりに体が動いてはくれない。前世の戦技を生かすにはもっと鍛錬をしなければ。

「合否はどうなるのでしょうか」

「安心しろ。文句なしの合格だ」

「ありがとうございます」

 氷の剣を消し頭を下げると、試験官は苦笑しながら剣を鞘に収める。

「礼を言うその癖は直しておけ。相手に対して失礼になることもあるからな。まぁ今後の検討を祈らせてもらう」

 試験官が認めたのを確認し受付嬢は丁寧に頭を下げる。

「合格おめでとうございます。それではDランクとしてギルドに登録いたします。こちらに記載してください」

 再びギルドの受付に案内され、用意された紙に記載しギルドメンバーとしてカードに登録される。

 Dランク
 名前 グレン
 職業 魔法剣士
 武器 物質魔法剣
 得意 水氷魔法

 記載する内容は少ないが、両親や兄達の話ではDクラス冒険者の30%近くが一年以内に死亡するという。その為一人ずつ詳細な情報を必要とはしていないのだろう。得意系統は奥の手として人に知られず鍛錬し、隠しておけと言う兄達のおかげで得意なモノは全て奥の手で記載はしない。用紙を受付に渡すとカードに書き入れているようだ。

「これで登録がおわりました。本日依頼を受けて行かれるのでしたらD以下の掲示板をご確認ください」

「ありがとうございます」

 数分して出来上がったギルドカードを受け取った。