『さぁ、はじまりました飛也選手対影も形もなくてもちぎれかけることだけはめっぽう得意な理性選手との対決で……おおっと!聞こえる!聞こえるぞぉ!開始速攻、姿は見えなくてもブチブチと音を立てて確実に理性選手がちぎれていく音がぁ!ブチブチ、ブチブチ…。ちぎれる、ちぎれていくぅ!!猛スピードでちぎれていく理性選手、ブッチィッ!と派手な音で全てちぎれるのもこれは時間の問題かぁ!?どぅおするっ、飛也選手っ!?』
バンバンバンッ!パイプ椅子を転がし、安っぽいテーブルを叩きながらマイクを振りかざして実況者あるあるのやけに高い興奮気味のテンションで盛大に煽られる――っるっせぇな!!邪魔すんじゃねぇ!!
頼む落ち着け。ただ落ち着け、落ち着くんだ俺。無になれ仏になれ蜜のため。カモン!プリーズミー!O・TI・TU・KI!!
すでに遥か彼方に放り投げてしまった冷静を必死で求める。
それをなくした胸は太鼓でも鳴ってるんじゃないかと思うぐらいバクバクと耳障りなほどうるさい。
落ち着け落ち着け落ち着け取り乱すな耐えろ俺!!と繰り返す心とは裏腹に、あのタオルを取ってしまえば――なんて、自分の首を自分で容赦なく締める俺はさすが俺だなと最早関心の域。
日夜培ってきた妄想力が今は仇でしかなくて。
「…っ、」
生き地獄すぎて死ぬ…。
逸らした目をもう一度向ける自信はない。この瞬間でさえ少しでも気を抜けば確実にぶっちぎれる。こうして耐え忍べていること自体ミラクルな奇跡。
正気に戻ったら全力で褒めちぎれよマジでこんちくしょう…。