怪訝な表情を浮かべる女の子、もとい桜子(さくらこ)ちゃんに……困った。昔を思い出してて、存在忘れてたとか言えねぇ。
「…ごめんね」
とりあえず謝っておいた。だって理由は言えねぇから、謝るしかないだろ?
ポリポリと頬を掻いて、昔に、ではなく桜子ちゃんをこんな短時間で忘れられた自分に苦笑する。
と、桜子ちゃんの表情が変わった。眉を下げて申し訳なさそうな表情に。
グロスが塗られて艶々したピンク色の唇がゆっくり、開く。
「蜜なら、もう帰っちゃいましたよ…?」
「………は?」
なん、だと?帰ったって、え?嘘だろおい。
予想もしない予想外な展開。言われたセリフにドクンッ、心臓が跳ねる。嫌な予感が、する。
頭が上手くついていかなくて、なんで、とかそんなん思う前に思い当たる節があるから嫌でも答えが見えてしまう。
「(冗談、だろ)」
ドクンッ、心臓がまた跳ねた。なんだよ。マジでもう好きじゃなくなったわけ?俺に飽きちゃったの?なぁ、蜜。
問いかけたって、声に出さなきゃ聞こえない。声に出したって、今目の前に居るのは蜜ではなく桜子ちゃん。
たぶん桜子ちゃんは蜜の友達。〝蜜〟と、その名前を言う口は俺と一緒で言い慣れていた。
ああ、だから俺のこと知ってたのか。なんて。そんなことどうだっていいっつーの。