熱くなった目頭に、自然と下を向いていた顔はソプラノに名前を呼ばれてはっと持ち上がる。
目の先には眉を下げて心配そうに俺を見上げる桜子ちゃん。
さっきみたいに忘れていたわけではない。
ただ泣きそうになって、蜜が俺にとって一番の人だって。蜜がいなきゃ生きていけないって。当たり前のことを頭の中で改めて思っていただけ。
涙の膜が張った瞳が少し恥ずかしい。蜜を想っての涙だけど、やっぱ男として〝うわっ、泣いてる〟なんて思われるのはちょっとやだ。
しかも蜜の友達だし。ダサいし――って、それはまあ今さらだけど。
ごめんね、と言いながら袖で目を擦り、首を緩く傾げて桜子ちゃんの続く言葉を待つ俺。
桜子ちゃんを見ていると、今すぐに蜜に会いに行きたくなった。
聞きたくない別れの言葉を言われるかもしれない。泣かれるかもしれないし、最悪の場合は会ってもくれないかもしれない。先に帰ったぐらいだし。
そう考えたらまた強くドクン…ッ、心臓が跳ねた。不安は溢れる。
だけど、でも。
今日蜜に会わなかったらたぶん明日も明後日も俺は蜜に避けられ続けて、蜜との幸せな将来は日に日に遠ざかっていく。
不安になって、びびってる場合ではない。