働く時間に比例して長いバイトの休憩時間中、暇潰しに街を歩いていたときにふとジュエリーショップが目について、絶賛浮かれポンチなうだった俺は思い立ち、立ち寄った。

店内を見て回ってネックレスにしようか迷ったけど、俺のって証で、男避けに一番わかりやすい指輪にした。

前々から蜜に寄り付くクソうざい害虫どもを牽制しようと思ってたところだったから、ちょうどタイミングもよくて。


買ったのは、もうすぐ付き合って一年の記念日がくるけどそれとは別に、蜜が俺を喜ばせてくれるなら、それなら俺も蜜のことを、という理由。

バイト終わり、なにも連絡なくて誕生日終了のお知らせのテロップが流れたときは、まあ指輪まで浮かれて買ったもんだから、何ページか先の前述した通りのお察し。

だけどもしそのまま俺の誕生日がフェードアウトしていってても、それはそれでせっかく買ったし、結果蜜の笑顔が見れればなんでもいいから、結局どう転んでも蜜の指に指輪がはまることに変わりはなかった。


高校生のバイトが買えるような安いものだけど、許して。次はちゃんとした本物をあげるから。


小さく口を開けて、すぴすぴと眠る蜜の手を取る。左手の華奢で細い薬指にするすると通っていく指輪にドキドキと緊張する。

…おお、やばっ。俺天才。

何度も触れてきた指を思い出しながら当てずっぽうで買った指輪は奇跡的にジャストサイズでぴったりとはまり、完璧すぎてめちゃくちゃ決まるドヤ顔。

いや、普通にすごくね?さすが蜜のことならなんでもわかる俺〜。


閉じたカーテンの隙間から漏れる月明かりが指輪をキラキラと輝かせ、それを眺める俺は嬉しくなる。自然と笑みが零れる。俺の、蜜。俺だけの蜜。愛してる。絶対死んでも離さねぇ。


慈しむように指輪を撫でて、蜜にキスをしてから目を瞑る。早く明日の蜜の笑顔が見たいな、と頭の中で指輪に気づいたときの蜜の反応も想像して綻ぶ口元。

そろそろ俺も。現実と同じ幸せな夢が見れますように。

おやすみ、俺の愛しのハチミツ彼女。


 ハッピーバースデー

 (ありがとう、蜜。)

 (溢れる愛と幸せに溺れられるって、)
 (最高の幸せ者。)


 想像した通りの反応を見せてくれた蜜に
 会えるのは、
 あと数時間後の未来。


 -END-


「…、」


言葉では言い表せないほどの幸せと愛しさが満ち満ちて膨大に溢れた夜が明けた朝。ピチチ、と鳥は囀(さえず)り、外は青空広がるカラッとした快晴。うん、申し分ないほどいい天気。

もう9時を過ぎてしまっているけど、珍しく自然と目が覚めて、眠気も飛び先に起きた俺はまだ気持ちよさそうに夢の中にいる蜜のために朝飯を作ってやろうと一人、一階のリビングに降りてきていた。

そこで、いつも食事をするテーブルの上に置かれた紙と小袋を見つけて。


【ハッピーバースデー飛也★18歳おめでとう!彼女の蜜ちゃん超可愛いね!飛也がのろけちゃうのもわかる。早く娘にしてね!ということで、翔織君とデートしてくるので明日の夜まで帰りません。飛優にも帰るなと言ってるので、安心して存分に楽しんでね!あと、少しだけどあたしと翔織君、飛優からプレゼントです。】


と、それは母さんの丸々とした字で書かれた手紙と、空をこえてラララ星のかなたまで行く心優しい超有名な某ロボット少年のアニメのポチ袋に諭吉さんが三人も入った誕生日プレゼントだった。

諭吉三人はアツい。激アツ。ありがとうございます。

ちなみに飛優(ひゅう)は兄貴のことで、なんで某ロボット少年のアニメのポチ袋なのかというと、母さんがこのアニメを好きだから。

あと、自分の名前がロボット少年の妹と同じ名前だから、って理由。母さんはひらがなで〝うらん〟だけど。


――てか、それよりも、だ。

手紙の内容で、なんで蜜が家にいたのか、その経緯がなんとなく想像ついた。それに、母さんと親父が帰ってない理由も。兄貴はいないことの方が多いからなにも思うことはない。


つーか、さすがだな俺の家族。空気読めすぎじゃね?気にすることがなにもないのはありがたいけど、逆にそこまで気遣われたら恥ずかしいんだけど。

帰ってきたら親父と母さんにニヤついた顔でめちゃくちゃイジられるんだろうな…。特に母さん…。想像するだけでうざい。ダルい無理。当分会いたくない…。そういうわけにはいかねぇけど。

ああああ、感謝だけどものすごい嫌。


はぁ、複雑な心境に重いため息が口から零れる。

手紙の下部に【PS.避妊は絶対するべし!!しない男はゴミだよ。】と絵心が壊滅的にない(幼少期の頃は怖すぎてよく泣かされた)母さんが描いたなんなのか理解不能なただのバケモノが吹き出しでそう言っているのは見なかったことにして(避妊は当然ちゃんとしました)、おりおり、折りたたんだ手紙をポチ袋の中に入れ、スウェットのポケットにしまう。

さて、朝飯作りますか…。


気を取り直してキッチンに移った俺は、棚からフライパンを取り出し、なに作ろうかと思いながら冷蔵庫を開ける。と、すぐに目に入ったいつもはない大きめの白い箱。あ、これって――、


「…うおっ!?」


もしかして…、とその箱の中身に期待を抱いたと同時に、突然後ろからドンッ、と突進の勢いで誰かに抱きつかれた。

誰か、なんて蜜しかいないしありえないけど。母さんの手紙では帰ってきてないはずの兄貴だったらキモいしキモいしキモいし怖い。秒速で腹に肘をめり込ませてる。


「はよっ、蜜。どうした?」

「っとーや、これ…っ」


後ろを振り向いて、下を見た俺の瞳にはぎゅーっとしっかり抱きつき、もうすでに涙をポロポロと落としながら左手の薬指にはまる指輪を見せてくる蜜。

慌てて降りてきたのか、床に捨てたままだった俺が昨日着ていたシャツだけを着た蜜に「(……ん゙っ!!)」胸がやられる。

小さい蜜には首元が広すぎて肩が出そうなぐらいブッカブカのシャツの破壊力は計測不可能なほどやばいやばすぎる。めちゃくちゃ萌える尊いしゅき…。

今の蜜が目の前に立ってくれているだけで、余裕で白飯大盛り五杯はいける。いやもう飯より蜜ちゃんが食べたいです辛い(主に下半身が)。


有り余る性欲は猿並みだけど、さすがに数時間前にシて寝て起きてすぐに二回目は初めてで相当無理させてしまったのに愛する彼女の身体も労われないクズの極みだとわかってるから、我慢する。

今まで鍛錬を重ねに重ね、磨いてきた鋼の心だ、俺。


派手にぶち切れそうな理性を無理矢理抑える俺の顔は少々苦しさ混じりに引き攣り気味だが、精一杯、気づかれないようになんとか平然を装う。


「気に入った?」


開けていた冷蔵庫を閉め、蜜と向き合うように体の向きを変えてそう言えば、蜜はこくこくと頷いた。


「っありがとー…」

「ん〜、できれば笑って言ってほしいな〜」


ふわふわ、寝癖がついてぴょんっと不格好に髪が跳ねた蜜の頭を撫でながら要望すると、蜜は自分の頬を濡らす雫をゴシゴシと目を擦って拭いだして、「ダメ」すぐにそれを止める俺。

…いっつも目傷つくからダメっつってんのに。

雑な蜜に変わって、俺が目元を柔く撫でて拭う。


「んっ、へへっ。飛也ありがとう。大好きっ!」


そう無邪気に咲いたとびっきりの笑顔は、〝おめでとう〟を言ってくれたときのものと変わらない最高の笑顔。


きゅうううううんっ。可愛い。可愛すぎるもうやだ。こんな可愛いの外に出したら危険。超危険。誰にも見せたくない。閉じ込めておきたい。そんなSなこと思ってしまうぐらい可愛くて参ってしまう。

今日も絶好調に可愛さフルスロットルですね蜜さん。


シたい。今すぐ二回目をしたいのがぶっちゃけた本音。

――けど。


「(ああ、もう。好きだなぁ…)」


さっきみたいに、脆い理性がガタガタと崩れていくことはなく、やっぱり今はいいかな、そう思う。

左手の薬指で輝く指輪を手に取ってわかるぐらい本当に心から嬉しそうに眺めているその表情だけで、俺の全部が満たされる。

あげてよかったって、喜んでくれている蜜に俺は幸せを噛み締めた。


でーも。ごめん、やっぱキスだけは許して?


蜜、と愛しい名前を紡いで、指輪に注がれていた目線を俺へと向けさせる。かち合う瞳。少し顔を傾けて近づける素振りを見せると、いつものようにぽぽっと照れてから静かに瞼を伏せる蜜。…かわい。

チュッ、と唇を落として、それから舌を入れずに啄ばむようなキスを繰り返す。柔らかい唇を俺ので挟んだり、ぺろり、舐めたり。

そんなゆるいキスでも続けると、恥ずかしがり屋の蜜はゆでダコみたいに顔を真っ赤にしながらギブアップと根をあげて、力が抜けたようにぽすんっ、俺の胸にもたれてきた。


「え〜、蜜さんもう降参ですか?」

「……白旗」

「…ふはっ。うん、じゃあ俺の勝ち。負けた蜜ちゃんには俺と一緒に朝飯作るの刑に処す」

「…作るっ!」


そっこうで胸から上がった顔。罰なのにぱあっと笑顔を咲かせて、にこにこと笑う顔はものすっごく嬉しそう。

ひょこひょこ、嬉々とした感情と同じように動く犬耳が幻覚で見えてしまう。


はいはい待ってましたと言わんばかりにお決まりのズッキュンと、グサグサグサッ!ハートの矢を何千本いただいたところで、「あ、」俺は思い出す。


「蜜、アレ。冷蔵庫に入ってたやつ。もしかして俺に?」

「…あ、ケーキ!うん、飛也にです!」

「やった。手作り?」

「…うぐっ、お、美味しくないかもしれないけど、一応…」

「絶対美味いに決まってんじゃん」


俺から目を逸らして、自信なさげにぼそぼそと言う蜜に食べてもないのにそう断言する。

料理全般苦手みたいだけど、俺を想って頑張って作ってくれたものが美味しくないわけないじゃん。蜜が作ってくれたものなら尚更。もし本当に不味くても、俺には美味く感じるし、きっと手を止めることなくペロリとたいらげてしまうと思う。

嬉しい。早く食いたい。


「早くケーキ食べたいから、ご飯作ろ」

「う、うん。……期待しちゃダメだよ」

「やだ。してる。超してる。だって嬉しいもん」

「…っううう〜。とーやのバカちん…」

「なんでだよ」


素直に言っただけなのに。

かぁっと頬を赤らめた蜜はまた俺の胸に顔を埋めて、羞恥に悶絶してるのか変な呻き声を出しながらそれをぐりぐり、擦り付けてくる。そしてヤジを飛ばす。いちいちやることが可愛い。

次から次へと、まだ起きて数十分しか経過してないのにすでに可愛いと嬉しいの嵐で表情筋ゆっるゆるのゆるっゆるだから、今日一日、一生このデレ顔続くな、確定。


俺と同じ匂いのするハニーブラウンにキスの雨を降らしていたら、んー、なんだかすごくムラムラしてきたんですけどー…。

今はいいかな、とかほざいていた理性は何処へ。やっぱ猿。俺は猿。いや、こんな宇宙一最高に可愛い生き物を目の前にして我慢できる男とかいないでしょ。

俺以外の奴が蜜をそんな目で見ようもんなら当然、三途の川渡っていただくけど。全世界の男どもの思いはきっと共通。


結局はなにを言ったってどうしても催してしまう劣情に抗えず、ハニーブラウンに唇を当てながら腰を抱いていた手は、ススス…、お尻を撫でて、ちょうどお尻を隠す長さの裾から中へ侵入し、今度は下着越しに触れる。


「ひゃ…!?はわわ…っ!」


俺の胸で羞恥に煩悶していた蜜は、突然の刺激に素っ頓狂な声を上げた。それからばっと素早い動きでハニーブラウンから唇を離した俺を見上げた顔ははわはわとして、すでにゆでダコ色。

なななななに!?って、蜜の口から今すぐにでも飛び出しそうなセリフがまんま顔に書いてるからおもしろい。


劣情のみならず悪戯心も擽られ、ますますその気になってきたクズ野郎(俺)の手は調子に乗って、ゆるゆるときわどい動きで肌を撫ぜていく。

お尻から太ももに移り、蜜が甘い声を零して疼くように動かす指で、脚の付け根の触れるか触れないかのギリギリをツ…ッ、と焦らせば、声と一緒に熱い吐息も漏らす蜜。

肌の感触を楽しみながら、悪戯に焦らして焦らして、一向に触れなかった場所――昨晩、初めて触れた蜜の弱いところに触れた瞬間、「…あっ!」蜜は一際甘い声を上げた――、


「…っ、…って、ててててーいっ!」

「!?」

「ああああ朝からダメ!レッドカード!セクハラ条例で逮捕するぞ!」

「セクハ…、」

「蜜着替えてくるっ!」


さっきまで抵抗もなく大人しく身を任せてたはずなのに、え、まさかのおあずけ…?

ふしゅふしゅと真っ赤な顔から湯気を立ち上らせながらプリプリと怒り出した蜜は、矢継ぎ早に言うと隙間なくくっついていた身体を簡単に離し、逃げるようにバタバタとリビングの外へ繋がるドアへ走っていく。

ハチミツ彼女

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