微笑みながら――なんて言っても、今の俺には作り笑いしかできない。嘘つかせてもらうよっていうのはこういう意味。

だって言ったじゃん、俺。笑えねぇって。

好きな女に愛想尽かされてるかもってめちゃくちゃ不安なのに、作りもんじゃねぇ笑顔を浮かべる余裕なんかない。そこまで大人じゃねぇよ。

あるかもわからない希望にすがり付いてるぐらいなんだから。


「…え、あの、」


俺の偽物の微笑む顔に気づいてるけどあえて言わないのか、それともただ気づいてないのか。

表情にも出さないでそこには一切触れず、桜子ちゃんは俺の問いかけに少しの驚きと戸惑いを混ぜて言葉を返してきた。


「蜜から…なにも言われてないですか?」


返ってきた言葉――それはまさかの疑問符で。蜜からなにも言われてないって、え、なんか言ってたの?

今日話したときに蜜が言っていたセリフを思い出してみるけれど、たわいないセリフと、音楽室のときの〝やだ〟。

先に帰るなんて言われた覚えもないし、そういったLINEも電話だってこなかった。

なにも言われてないよ、俺。