誰もいない音楽室。そこには付き合って5ヶ月が経つ男女が二人。
密室に二人っきりという最高の状態で瞳と瞳が絡まり合えば、先ほどまでは流れていなかった甘い空気が必然的に流れ出すわけで。
「――蜜」
俺は瞳が絡まった目の前の彼女の名前を囁くように紡ぎ、そっとピンク色に染まった頬に手を伸ばし添える。
途端ピクッと跳ねるその身体。触れる頬はじわりじわりと熱を帯びて、熱い。
ピンク色から朱に変わった頬を見て可愛いなぁ…なーんて思いながら。自分の顔を小さく傾けて彼女に近づけていく。
と。
「……やだ」
むぎゅっと自由のきく空いた手で顔を押さえられ未遂。…手、掴んどけばよかったな。
心の中で舌打ちをして、やだとか言われた俺はおとなしく顔を上げる。けど、黙ってはいない。
「…なんで?」
俺の顔を止めてきた彼女の手を取り、唇から零れた声はいつもよりワントーン落ちていた。
仕掛けようとしたキスを拒まれたっていう事実。不機嫌になるのも仕方がない。ていうかそうさせたのはそっちだ。
ムッとあからさまに顔に出してそう問うと、ビクッと僅かに跳ねる肩。「え…えっと…」気まずそうに泳ぐ瞳。濁る言葉。
…また、か。