一人ぽつんと残されるテントの中。先生もまだ戻らないし、藤倉君も来る様子はない。
もしかして、忘れて帰っちゃった? そんな不安が頭をよぎる。いや、まだ実行委員の姿もちらほら見える。それはないだろう。
じゃあ何をしてるの? 忙しくても一度くらいは顔を出してくれそうな感じだったのに……
私はいてもたってもいられなくなってスマホを引っ張り出すと、
『片付け手伝えなくてごめんね』
そう送った。
帰ってしまっていたときのダメージを少しでも軽減したかった私は、待ってるからね、とストレートには送れなくて、返事が返ってきそうで且つ無難な台詞を送ってしまう。
だけどいくら待ってもそれが既読になることはなくて、妙な不安が押し寄せた。
彼を探そう、思い立ち、ゆっくりと立ち上がる。痛みはしたが、体重をそれほどかけなければ歩けないわけではなさそうだった。
手近にあった紙に、藤倉君を探してきます、と書き残し、私は残っている実行委員の生徒に彼の所在を知らないか尋ねて回ることにした。
けど目立つ彼のこと。だからそれは案外早く判明して、でも私の心に大きな波風を立てた。
「三人の女の子と一緒に、併設されてる公園の方へ行くのを見たわよ」
「公園……?」
「遠目だから学年までは分からなかったけど、あれはB組のジャージの色だったわね。彼モテるから、呼び出されたんじゃない?」
何回か一緒に買い出しにも行ったその先輩は、私の心なんて知るはずもなく、罪な男、と楽しそうに揶揄する。
「ありがとうございます」
でも私はそれに乗っかる心の余裕が全然なくて、辛うじて礼を言ったけどその場に立ち尽くしてしまった。
今までだって、考えなかったわけじゃない。
かっこいい藤倉君のことだ。きっと告白されるなんて日常茶飯事のはず。今日みたいな、感情が高揚するイベント事がある日なら尚更。
でも心のどこかで、ライバルは琴平さん一人だと高をくくっていた。訪れる未来を知っているだけに、彼女一人に気を付ければいい、と。
だけど私は……私がかかわらずして変わってしまった事象を、既に体験しているのだ。ならばこれから先だって、彼の心が何かしらのきっかけで、私が見た未来とは別の道を歩み始める可能性だってあるのではないか。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
早く、早く彼を見付けなければ。
痛む足を引きずりながら、私はひたすら歩いた。
競技場から外へとつながる階段を、手すりを頼りに何とか下りる。正面に施設全体の見取図が掲げられていて、公園を急いで探した。
運が悪いことに公園は、現在地と書かれている場所からは競技場を挟んでちょうど真逆に位置している。この足で行って果たして間に合うだろうか、そんな考えが頭をよぎったけど、考えている間にも事態は悪い方向へ進展しているかもしれない。
私は急き立てられるように歩き始めた。
もしかして、忘れて帰っちゃった? そんな不安が頭をよぎる。いや、まだ実行委員の姿もちらほら見える。それはないだろう。
じゃあ何をしてるの? 忙しくても一度くらいは顔を出してくれそうな感じだったのに……
私はいてもたってもいられなくなってスマホを引っ張り出すと、
『片付け手伝えなくてごめんね』
そう送った。
帰ってしまっていたときのダメージを少しでも軽減したかった私は、待ってるからね、とストレートには送れなくて、返事が返ってきそうで且つ無難な台詞を送ってしまう。
だけどいくら待ってもそれが既読になることはなくて、妙な不安が押し寄せた。
彼を探そう、思い立ち、ゆっくりと立ち上がる。痛みはしたが、体重をそれほどかけなければ歩けないわけではなさそうだった。
手近にあった紙に、藤倉君を探してきます、と書き残し、私は残っている実行委員の生徒に彼の所在を知らないか尋ねて回ることにした。
けど目立つ彼のこと。だからそれは案外早く判明して、でも私の心に大きな波風を立てた。
「三人の女の子と一緒に、併設されてる公園の方へ行くのを見たわよ」
「公園……?」
「遠目だから学年までは分からなかったけど、あれはB組のジャージの色だったわね。彼モテるから、呼び出されたんじゃない?」
何回か一緒に買い出しにも行ったその先輩は、私の心なんて知るはずもなく、罪な男、と楽しそうに揶揄する。
「ありがとうございます」
でも私はそれに乗っかる心の余裕が全然なくて、辛うじて礼を言ったけどその場に立ち尽くしてしまった。
今までだって、考えなかったわけじゃない。
かっこいい藤倉君のことだ。きっと告白されるなんて日常茶飯事のはず。今日みたいな、感情が高揚するイベント事がある日なら尚更。
でも心のどこかで、ライバルは琴平さん一人だと高をくくっていた。訪れる未来を知っているだけに、彼女一人に気を付ければいい、と。
だけど私は……私がかかわらずして変わってしまった事象を、既に体験しているのだ。ならばこれから先だって、彼の心が何かしらのきっかけで、私が見た未来とは別の道を歩み始める可能性だってあるのではないか。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
早く、早く彼を見付けなければ。
痛む足を引きずりながら、私はひたすら歩いた。
競技場から外へとつながる階段を、手すりを頼りに何とか下りる。正面に施設全体の見取図が掲げられていて、公園を急いで探した。
運が悪いことに公園は、現在地と書かれている場所からは競技場を挟んでちょうど真逆に位置している。この足で行って果たして間に合うだろうか、そんな考えが頭をよぎったけど、考えている間にも事態は悪い方向へ進展しているかもしれない。
私は急き立てられるように歩き始めた。