「しっかし、すぐ助けに来てくれるナイトが一緒のチームで、月島さんもラッキーだったね」
「おい」

 先生が藤倉君を茶化しながら私に笑いかける。だけど、今の台詞が妙に引っ掛かった。
 何だろう? 考えて、すぐに思い当たった。そうだ、気にしないようにしていたけど、本当は私たちは、一緒のチームになるはずではなかったのだ、と。

「先生、部活対抗リレーのチーム分けのくじ引きって、誰が行なったんですか?」

 もしかして知ってるかと思い尋ねてみたけれど、誰だろう? と首を傾げるその顔は、本当に何も知らないようだった。

「そういえば、最初に一緒のチームになったって話したときも、何だか様子が変だったよな?」

 藤倉君が目敏く指摘してくる。

「何か気になることでもあるのか?」
「あ、いえ……」

 本当の理由は口にはできない。気にする言い訳も思いつかない。だから言葉を濁すしかできなくて、藤倉君は少しだけまだ何か言いたそうに眉根を寄せる。でも私のどこか深刻そうな雰囲気を察してくれたのか、それ以上は二人とも突っ込んでくることはなかった。

「多分骨に異常はないと思うけど、終わったら俺の車で病院連れてくから」

 手首と足首に大袈裟なほど包帯を巻いた先生は、そう告げて立ち上がった。

「終わるまではここで休んでな。藤倉は戻った戻った」

 シッシッ。まるで犬を追い払うみたいに。
 仮にも手伝ってもらった生徒に対してそんな態度を取るなんて、こっちが申し訳なくなってしまうではないか。
 競技場に目を移せば、そろそろプログラムも終盤の種目。

「ありがとう!」

 不貞腐れながら立ち去ろうとする藤倉君の背に、だから私は有りっ丈の感謝をこめて声をぶつけた。ごめん、そう続けそうになったけどそれは呑み込む。謝るなって言ってくれたから。
 振り返った藤倉君は照れ臭そうに笑っていて、

「お大事に。終わったら迎えに来るから。先生、俺も乗っけて」

 それだけ早口で告げると、今度こそ走って行ってしまった。

 こ、これは、一緒に行ってくれるってこと……? 

 心臓がバクバクして、私は胸に手を当てた。彼と話すたびに、彼に触れるたびに、そこは暖かいキラキラで満たされていく。何だか息を吐くのも勿体ないくらい。

「青春だねぇ」

 先生が笑う。
 多分私の顔は真っ赤になっていて、恋心はとっくに見透かされているのかもしれない。それでも幸せには変わりなかった。自分が変われば、世界はこんなにも変わる、そう気付けたから。

「青春です」

 そんな言葉だって飛び出すほど。

 一度しか訪れないはずの高校一年生。だけど私は運良く二度目を手に入れた。だから悔いの残らないように精一杯頑張る大切さを、誰よりも理解できたのかもしれない。