「なんだ、月島やってくれるのか?」

 武本先生が確認を取る。

「はい、やります」

 毅然とかっこよく答えたかったけど、声も震えてしまった。

「お、月島は藤倉と同じ中学か。ならちょうどいいかもな」

 先生が、手元にある紙を見ながらにかっと笑った。

「――大丈夫?」

 その時だった。
 気遣うような優しい声。誰の声かと思った。誰に言っているのかとも思った。けど、全員の視線が私に集まって、それで気付いた。

「え?」

 顔を上げれば、右斜め前方の座席からこちらを振り向き、私を見つめる藤倉君の姿。
 その瞳が、そういうの、得意な性格じゃないでしょ? と問いかけていた。
 心配してくれてるの? 優しい眼差しに、思わず泣きそうになった。

 それがどんなに私を勇気付けたか、あなたはきっと気付かない。それだけで、私はなんでもやれる、そう思えてしまうくらいに。

「大丈夫」

 今度の声は震えなかった。

「大丈夫です。私、やります」

 笑顔で言えた。

 藤倉君はまだ心配そうに見ていたけど、私はそれにもう一度笑顔を返す。すると、やっと笑ってくれた。「じゃあ宜しく」って。
 凄く嬉しかった。私の性格を知ってくれていたことも、私をクラス委員のパートナーとして認めてくれたことも。

 クラスを仕切るなんて、私には荷が重すぎる役職だったけど、何かと行動を共にすることの多い雑務や行事を通じて、藤倉君と琴平さんは仲を深めていったのかもしれない。そう思ったら、いてもたってもいられなくなっていた。

 勇気を振り絞って。実際本当にそうだったし、彼の目にもそんな健気な女の子に映ったかもしれない。だけど裏を返せば、要は二人がくっつくのを阻止したかっただけなんだ。でも、そうまでしても私は彼に近付きたかった。

 バスケ部のマネージャーになるというのも、考えなかったわけじゃない。でも二度目とはいえ、それほど頭の良くない私が、クラス委員もやって、強豪のバスケ部のマネージャーもやって、情けない話、とてもじゃないけど『優秀な子』を維持できる頭でいられるとは思えなかった。

 だから、部活動だけは戻る前と同じ、手芸部にした。でも前と同じじゃいけないと思ったから、自分の中である決め事をした。
 以前は地味、楽、それをいいことに、ほとんど活動らしき活動はしていなかったけど、今度は、夏に行なわれるレース展、それに出品してみよう、と。レース編みの展覧会で、優秀な作品は大々的に地方紙に載ったりする、わりと大きな展覧会。
 そんなに大きい作品は作れないかもしれない。初めてだから不格好かもしれない。それでも、やれる範囲で頑張る、それを実行していきたかった。

 戻る前とは雲泥の差。きっと上手くやれている。自分に少しだけ自信がついた私は、そんな充実した日々を送っていった。