え? 何で? 思わず動揺してしまう。だって、一度目は会いたくても会えなかったのに。慌てて目を逸らそうとして、だけど思い留まった。
そんなのどうだって良い、今しがた、決めたばかりじゃない。
大袈裟じゃない、私にとっては一世一代、彼に向かって微笑みかけた。
多分相当ぎこちなかったと思う。顔の筋肉が強張っていて、ギギって音がしたんじゃないだろうか、それほどだったけど、変わるって決めたんだから頑張らないと。これはその第一歩だ、そう自分を鼓舞した。
声が聞こえるような近さではなかったからそれしかできなかったけど、心臓はバクバクだったし、息だって上手く吸えない。心の距離が果てしなく開いたように感じたあの高校時代を体験していたからこそ、尚更だった。
藤倉君は少し驚いたように目を見開いて、でもその後はにかんだように笑うと、そして私に向かってガッツポーズをしてくれた。
彼が受かったことは知っていたけど、それだけじゃない涙が嬉しさで滲んだ。
藤倉君は私とボードを交互に指差す。
番号あった? 恐らくそう訊いてるみたいだった。
本当は同じようにガッツポーズを返したかったけど、それをやったら多分倒れる。私の勇気メーターは既にレッドゾーン。だからせめてと笑みを深くして、二度、大きく頷いた。
すると今度はサムズアップ。
ああ、笑顔が私に向けられたのは、いったいいつ以来だろう。
人が多くて近くまで行くことは無理だったけど、こうして彼と直接喜びを分かち合えたことが、一度目よりも何もかもが上手くいく、そんな予感を抱かせた。
そう。上手くいく、いや、いかせてみせるんだ。
彼は片手を上げる。「またな」と言ったように見えた。
私は頷き返すと、雑踏の中に紛れた背中が完全に見えなくなるまで見つめ続けた。
運命を決める、私にとっては二度目のクラス分けテスト。それはあっという間にやってきた。
でも大丈夫だったと思う。準備は万全だったもの。
問題も答えも全て頭に入っていたし、どこをどう間違えたら不自然にならないか、そんなことにも頭を使った。時間だってたくさん余ったから何度も見直した。
これは、言ってしまえばカンニングだ。けど私の頭の中には、彼と同じクラスになる、それしかない。後ろ暗さには、特大の重しを付けて蓋をした。
クラスが貼り出された廊下を目前にすると、それでも緊張で手が震えるのが分かった。動悸も凄い。全力疾走したってこんなにはならないってほど。
そこは大勢の人だかりができていて、喜んだり嘆いたり、まるで合格発表日の再現のようだった。
私は地面に張り付いたように強張る足を、なんとか前に出す。
大丈夫よ、絶対大丈夫。
祈るような気持ちで顔を上げた。
――果たして、私の名前はA組の中にあった。
いつの間にか止まっていた息が、小さく細く口から零れる。結果が分かっていても、万が一に、ということもある。だから心底ほっとした。
良かった、第一関門突破だ。
ここでA組になれなかったならば、私はきっと後悔していた。でも大丈夫、セーフだ。
あと何度、こんな思いをしなくちゃいけないんだろう。思わずため息を吐きそうになって、慌ててその思考を打ち消した。
ダメだ。
後悔、それがどの程度のものを指すのか分からない以上、不用意に弱音を吐いてはいけない気がした。もしかしたらほんの些細な後悔ですら、カウントされてしまうのかもしれないのだから。
変わるって決めた。ならば弱音は禁物だ。強制的に弱音を吐けなくなったこの状況を、寧ろありがたい、そのくらいに考えよう。
そう、私は明るくてポジティブ、そんな仮面を被るんだ。被ったら取れなくなる、いわく付きの呪われた仮面だって良い。
そんなのどうだって良い、今しがた、決めたばかりじゃない。
大袈裟じゃない、私にとっては一世一代、彼に向かって微笑みかけた。
多分相当ぎこちなかったと思う。顔の筋肉が強張っていて、ギギって音がしたんじゃないだろうか、それほどだったけど、変わるって決めたんだから頑張らないと。これはその第一歩だ、そう自分を鼓舞した。
声が聞こえるような近さではなかったからそれしかできなかったけど、心臓はバクバクだったし、息だって上手く吸えない。心の距離が果てしなく開いたように感じたあの高校時代を体験していたからこそ、尚更だった。
藤倉君は少し驚いたように目を見開いて、でもその後はにかんだように笑うと、そして私に向かってガッツポーズをしてくれた。
彼が受かったことは知っていたけど、それだけじゃない涙が嬉しさで滲んだ。
藤倉君は私とボードを交互に指差す。
番号あった? 恐らくそう訊いてるみたいだった。
本当は同じようにガッツポーズを返したかったけど、それをやったら多分倒れる。私の勇気メーターは既にレッドゾーン。だからせめてと笑みを深くして、二度、大きく頷いた。
すると今度はサムズアップ。
ああ、笑顔が私に向けられたのは、いったいいつ以来だろう。
人が多くて近くまで行くことは無理だったけど、こうして彼と直接喜びを分かち合えたことが、一度目よりも何もかもが上手くいく、そんな予感を抱かせた。
そう。上手くいく、いや、いかせてみせるんだ。
彼は片手を上げる。「またな」と言ったように見えた。
私は頷き返すと、雑踏の中に紛れた背中が完全に見えなくなるまで見つめ続けた。
運命を決める、私にとっては二度目のクラス分けテスト。それはあっという間にやってきた。
でも大丈夫だったと思う。準備は万全だったもの。
問題も答えも全て頭に入っていたし、どこをどう間違えたら不自然にならないか、そんなことにも頭を使った。時間だってたくさん余ったから何度も見直した。
これは、言ってしまえばカンニングだ。けど私の頭の中には、彼と同じクラスになる、それしかない。後ろ暗さには、特大の重しを付けて蓋をした。
クラスが貼り出された廊下を目前にすると、それでも緊張で手が震えるのが分かった。動悸も凄い。全力疾走したってこんなにはならないってほど。
そこは大勢の人だかりができていて、喜んだり嘆いたり、まるで合格発表日の再現のようだった。
私は地面に張り付いたように強張る足を、なんとか前に出す。
大丈夫よ、絶対大丈夫。
祈るような気持ちで顔を上げた。
――果たして、私の名前はA組の中にあった。
いつの間にか止まっていた息が、小さく細く口から零れる。結果が分かっていても、万が一に、ということもある。だから心底ほっとした。
良かった、第一関門突破だ。
ここでA組になれなかったならば、私はきっと後悔していた。でも大丈夫、セーフだ。
あと何度、こんな思いをしなくちゃいけないんだろう。思わずため息を吐きそうになって、慌ててその思考を打ち消した。
ダメだ。
後悔、それがどの程度のものを指すのか分からない以上、不用意に弱音を吐いてはいけない気がした。もしかしたらほんの些細な後悔ですら、カウントされてしまうのかもしれないのだから。
変わるって決めた。ならば弱音は禁物だ。強制的に弱音を吐けなくなったこの状況を、寧ろありがたい、そのくらいに考えよう。
そう、私は明るくてポジティブ、そんな仮面を被るんだ。被ったら取れなくなる、いわく付きの呪われた仮面だって良い。