どこをどう帰って来たのか、さっぱり分からなかった。周りを見れば、既に家の近くの商店街。
 すっかり暮れた空。だけど都会の明るさ故か、星一つ見ることはできなかった。

 不意に、聞き覚えのある陽気な音楽が設置されたスピーカーから流れてきて、それで気付いた。そうか、今日はクリスマスだ。そんな日に、何てもの見ちゃったんだろう。

 ショーウィンドウに映し出された自分が、波打つ薄い膜の向こうにぼやけて見える。そのときまで、泣いてることにさえ気付いていなかった。
 急いで拭えば、この世の全ての不幸を背負っています、そう書かれた顔が姿を現す。
 泣き腫らした目は、元が細いから既に開いてるのかどうかすら怪しかった。我ながら、酷い顔。そうやって視線を外したって、意識してしまったからだろう。三百六十度どこを向いても、目に入るのは幸せそうな恋人たちばかりだった。

 藤倉君も今頃は――――……

 考えた途端、またしても涙が零れそうになって、慌てて上を向いた。でも見上げた夜空のスクリーンに映し出されたのは、抱き合う二人の幻影。私はそれを、懸命に振り払う。それなのにちっとも消えてくれなくて、それどころか二人は、私の方を見て幸せそうに笑ったんだ。

 浮足立った空気が、街が、総動員して私を苛めにかかる。
 イルミネーションという名の化粧を施した商店街は、昼間降った雪の残滓を仕上げとばかりの白粉に。乱反射する七色は、星の代わりに漆黒の夜空を彩っていた。
 吸う息すら甘く感じられる気がして、早々に吐き出す。息だけじゃない、本気で吐きそう。こんな所、一秒だっていたくなかった。

 勢いよく駆け出した私の足は、けれども商店街を抜けてしまえば途端に失速してしまう。すると取って代わるように、耐え切れなくなった涙が勢いよく溢れた。寒さのせいか鼻水までもが出てきて、益々酷い有様だと思ったけど、体裁を気にする余裕がもう私にはなかった。よくここまで我慢したもんだって、誰かに褒めてほしいくらいだった。

 彼を想い、我武者羅に頑張った日々。それが今、その全てを持って私を苦しめた。

 同じ学校に行こうだなんて思わなければ。
 頑張った報いがこれなんて、酷すぎる。

「うっ……っ……うっ……」

 声くらいは家まで我慢したかったけど、もう限界だった。何なら膝だって着きたかった。

「――見ちまったのかい? まったく、馬鹿だねぇ」

 突如聞こえる、しわがれた声。私は勢いよく顔を上げた。