眩しい――そんな感覚が意識を浮上させた。
 徐に目を開けると、赤い光が飛び込んできて、私はその強さに眉を顰めた。体を僅かに起こして窓の外を見やれば、ビルの合間から覗く西日が、直接顔を照らしていた。

 晴れたの? 変な天気。そう思って起き上がる。体は幾分か楽になっていた。

 そこで、はたと気付く。
 西日? 

 もう一度見ると、それは熟れ過ぎて落ちた柿のよう。背筋がぞくりとする。風邪のせいだけとは思えなかった。
 そのままゆっくりと起き上がり、ベッドを仕切るカーテンを開ける。

「先生?」

 声をかけるが返事はない。どうやら不在のようだった。

 どの部活ももう活動を終えたのか、外からも内からもいつのも喧騒は聞こえてこない。

 自分の息遣いすら耳障りなほどの静寂。寝ている間に、小さな箱庭にでも閉じ込められたのだろうか? そんな錯覚すら抱かせた。
 長く伸びる自分の影を見つめていると、それに引っ張られるかのように、私の足は一歩、また一歩と勝手に動き出した。扉を開ければ勿論そこは箱庭などではなく、見慣れた廊下が姿を現す。なのにちっともほっとしない。

 どこへ向かうというの? 私は見えない何かに操られるようにして、保健室を後にした。

 行くなと言われたじゃない。
 ――あんな世迷言、信じてるの?
 そうじゃないけど、嫌な予感がするの。
 ――感じの悪いおばあさんだった。真に受けて怖がって、何だか癪じゃない?

 自問自答を繰り返す。きっと今の私は、怖いもの見たさ、そんな心境。
 本能は必死に停止を呼びかけるけど、好奇心がそれを上回る。
 気付けばいつしか私は、音楽室の前まで来ていた。

 どくどくどく、早鐘を打つ心臓が警告音に姿を変える。これ以上は、やめておけ。

 でも私は、そのとき音楽室から微かに漏れ聞こえた人の声が、彼のものであることに気付いてしまったのだ。
 息を殺し、扉にそっと手を掛ける。比較的新しい校舎のそれは、音も抵抗もなくあっさりとスライドした。
 僅かな隙間の先、それほど遠くはなかった。

 ああ、何という絶望。

 暗くなり始めた窓を背に、愛しい彼、藤倉羽宗は、噂の彼女、琴平美雨と抱き合っていた。