トイラに腹を立てて勢いで保健室を出てきたが、ユキはトイラが気になって後ろをちらっと振り返る。

 すぐさまトイラと目が合い、ユキは慌てて前を向いた。

 いちいち気に障るが、あの緑の目はユキを確かに心配していた。

 そして口には出さなかったが、トイラも手に傷を負っていた。

 トイラの傷だらけの体を思い出し、また傷が増えてしまったことが、どこか悲しく思えた。

 先ほどの怒りもどこかへ消えうせ、教室の前にきたとたん、もう少し保健室にいるべきだったと後悔し、ドアを開けられないでいた。

 せめて今の授業が終わるまで待った方がいい。

 引き返そうと思ったその時、後ろから追いついたトイラが無遠慮にドアを開けてしまった。

 静かな教室でガラッと派手に音を立てて開いたドアは、一斉にクラスの注目を浴びた。

 トイラとキースは躊躇うことなく堂々と入っていく。
 仕方なくその後ろをおどおどとユキはついていった。

 みんなの視線を浴びて体全体がピリピリする。

 女子たちの目がきつく感じたのは気のせいじゃなかった。

「春日、大丈夫なのか」

 村上先生が訊いた。

「はい、すみません」

 ここは大丈夫ですと言うべきところ、何を謝っているのだろうか。
 周りの目が気になり過ぎて、それに屈服してしまったユキはこの場から立ち去りたかった。

 村上先生はそれ以上追及せず、事務的に授業を再開する。

 トイラとキースはおくびれることなく席につき、ユキは居心地悪く椅子に座った。

 教室の前の時計を見れば、昼に近い。

 朝の授業はほとんど終わっている。
 これなら一層のこと早退してもよかったと思えてしまった。

 戻ってきた事を悔やみながら、机の中の教科書を取り出す。
 それと一緒に四つ折りにされた紙切れが出てきた。