白露は冷蔵庫からあらかじめ用意して置いた食材を取り出し、白い指で空っぽのパフェグラスに生クリームと様々なフルーツを投入していく。

 たった数分のうちに、たちまちきらびやかなパフェが完成してしまう。

 愛梨はその魔法のような光景に、思わず見とれた。白露はどうしてこんなに料理が上手いのか。人間の食べ物が好きで研究しているからだと説明されたが、にしたって器用すぎる。


 この店で振る舞われるのは、思い出の料理。

 訪れた人間が後悔している時に戻れる、不思議な料理。 

でもこの鮮やかで美味しそうなパフェが誰かを不幸にするために作られたのだと考えると、どうにも煮え切らない気持ちになる。


「白露さんがこのお店をやっているのは、人を幸せにするためなんでしょう?」

「もう少し正確に言うと、幸せな気持ちになった人間のマナを食べるため、ですね」


 マナ。生命のエネルギーのようなもの。それを食べるために、白露はこの店で料理を振るまっている。

 それを食べないと、白露の空腹は満たされない。それが彼に課せられた、修行の一つ。


「卑怯な手を使ってコンクールで勝ったとして、鏡華さんは心から幸せになれるんでしょうか? 私はそうは思えません。結局ずっと、後悔だけが残りそうで……」


 白露はパフェと銀色のスプーンを盆の上に置くと、その盆を愛梨に押しつけた。


「愛梨は潔癖ですね。彼女に説明する時も言ったでしょう? 幸せには色んな形があると。他人が喜ぶのを幸せと感じるのが人間なら、他人の不幸を喜ぶ人間だって、存在するということです。愛梨にだって、不幸になって欲しい人間の一人や二人いるんじゃないですか?」


 愛梨は両手で盆を受け止めると抗議するように眉を寄せ、悲しそうに答える。


「私は、不幸になってほしい人なんて、そんなのいません……たとえ苦手な人だったとしても、不幸になれなんて、思えないです。そんな風に願って、もし相手が本当に不幸になってしまったら、ずっと気にしてしまいそうじゃないですか」


 白露は緩く微笑んで溜め息をついた。


「愛梨はそう言うと思っていましたよ。甘ちゃんですからね」


 それから愛梨の背中を叩き、前に進むように押し出した。



「とにかくこの店に到着した時点で、鏡華さんには願いを叶える資格があるということです。強い願いがないと、この店にたどりつくことは出来ませんからね」