鏡華は机に手をつき、白露の方にぐいと身を乗り出した。


「前置きはいいわ。この店に来れば、過去に戻れる料理が食べられるって聞いたけど本当?」


 愛梨は鏡華の態度に驚きを隠せなかった。

 ここに来た客のほぼ全員は、まず最初に白露の美しさに驚いて、ぽーっと見とれてしまうか、彼に興味を持っているのを隠すために警戒した様子になる。

 しかし鏡華はあくまで自分のペースを貫いている。


 白露に興味がないというよりは、それよりも重要なことがあるという感じだ。

 何者なのだろう、この少女は。


 深紫の羽織を身につけてゆらりと立っていた白露は、いつも通り表情の読めない顔でにこりと微笑んだ。


「おや、そこまでご存じなら話が早いですね。とはいえ、お客様の方でどの時間に戻るかの指定は出来ないのですが」

「指定が出来なくたって、戻るのは一番後悔している時なんでしょう? そういう噂だわ」

「その通りでございます」


 鏡華は満足気に微笑むと、はっきりとした声で宣言する。


「それなら問題ないわ。今年の夏。あたしの通っている学校の、コンクール当日。その日に戻って、絶対に優勝したいの! どんな手段を使っても!」


 鏡華はコンクールで敗北し、二位に甘んじた日のことを思い出し、歯を噛みしめた。 

 コンクールの日、コンディションは最高だった。

 それに鏡華の演技も素晴らしかった。ミスはまったくなかったし、それまでした練習を全部含めても、一番の出来だった。

 それでも、持ちうる力のすべてを使っても、あいつに勝てなかった。

 愛梨はテーブルに水の入ったグラスを置きながら、厳しい表情をしている鏡華にたずねる。


「えっと、コンクールで優勝ということは……演技をやり直すってことですか」


 鏡華は椅子に腰掛けると偉そうに足を組み、厳しい目つきで愛梨を睨んだ。それから絞り出すように言う。


「違うわ。もっとあたしが決定的に勝利できるようにするの」


 それを継いだのは白露だ。


「決定的に、といいますと?」

「あたしのライバル……東堂ひかりを、潰したいの」