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 愛梨はその日が来るまで、ずっと頭の隅であおいのことが引っかかっていた。

 何をしていても落ち着かず、ふとした時にあおいのことを思い出してしまって、家族や友達に不審がられた。


 とにかくいてもたってもいられない時間を何日も何日も繰り返し、最後にあおいに会った日から、あっという間に三ヶ月程が過ぎた。


 そしてある日曜日、電車を何本も乗り継いで、白露に案内された病院に向かった。

 白露はいつもと同じように着物姿だが、通りすがる人に特別注目されている様子はない。

 普段人前で出歩く必要のある時は、存在感を薄くする術を使っているらしい。

 だから着物姿で銀髪の美形という一目見たら一生忘れられないような風貌にも関わらず、誰の記憶にも残らず行動することが出来るらしい。


 白露は病院に到着した後も、迷いなくどんどん進んで行く。

 こういう場所は入るのに色々許可が必要だと思うのだが、白露はどんな場所にも平気で入ってしまう。あやかしの力でも使っているのだろうか。


 疑問に思いつつ到着したのは、どうやらリハビリ室のようだ。

 日当たりがよく、開放的な部屋だった。

 広いリハビリ室の中には、運動器具や手すりのついた平行棒が並んでいる。

 その平行棒の間で、一人の少女が歩行訓練をしていた。

 病院着を着て、細い腕で平行棒を握り占め、必死に前に進もうとしている。

 壁には彼女の物と思わしき松葉杖が立てかけられていた。


 離れた場所から横顔を見ただけで、彼女が水瀬あおいだと一目で分かった。

 愛梨は扉を勢い良く開き、彼女の名前を大声で叫んだ。