「それこそ、自分のすべてを使い果たすほどの、神がかった特別な力がなければ」
「神がかった、特別な力……」
「けれど特別な力なんてなくても、きっと人は考え方次第で、いくらでも運命を切り開けるんです。
たとえその先にある悲劇的な未来が変わることはなかったとしても、彼は確かに、自分のすべてを懸けて、あおいさんを救ったのです」
愛梨はこぼれ落ちる涙を止められないまま、何度も頷いた。
「大切な人が心をこめて伝えた言葉というのは、あやかしの私が過去をやり直すために使う力よりも、よっぽど大きな力になるんでしょうね」
愛梨は彼の言葉をかみ締めながら、空を仰ぐ。
「あおいさん、どうなったんでしょう? 手術を受ける決意をしたんですよね?」
本来、一度店を出た客のことを気にし続けるのはルール違反だ。
しかし白露は愛梨を咎めようとはしなかった。
「そうですね、代金をまだいただいていませんでしたから」
白露も同じように満月を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「彼女の体調が安定する頃になったら、あおいさんに会いに行きましょう」