それから惚けたように店を出て、軒先にある椅子に座り込んだ。

 竹林の道の向こうに、真ん丸な満月が浮かんでいるのが見える。

 その月があまりに丸くて綺麗で、愛梨は声を出さずに静かに泣いた。

 痛々しい彼女の姿に、白露は珍しく労りの声をかける。


「……愛梨」


「白露さん。どうにかして、昭平さんが助かる方法はなかったんでしょうか?」

「言ったでしょう。運命の糸は複雑に絡み合っています。たとえあおいさんがどんな方法をとっても、昭平さんが事故で死ぬのは変わらなかった」


 愛梨は白露の服の袖をぎゅっと握りしめて、訴える。


「白露さん、もう一度戻れませんか!? 車が来るのは分かっていたんです。だったら、もう一度戻ったら、そうしたら昭平さんは……!」


 白露は静かな瞳で、愛梨を落ち着かせるようにもう一度彼女の名前を呼ぶ。


「……愛梨」


 愛梨も、自分が我が儘を言っているだけだと分かっていた。

 本当なら、一度過去に戻るだけでも、絶対にありえない奇跡。

 この店に来られるのは、一度だけ。

 奇跡の代償に、きっと何かが犠牲になっている。